- 未来教育リポート
- 2015.05.19
企業が教育に関わる意味-クエストエデュケーションの取組から-|大和ハウス工業株式会社 小川 泰史氏 / 都立芦花高等学校 秋本 嘉一氏 / 生徒の皆さん (未来教育シンポジウム2015個別セッションリポート②)
第3部のセッション5では、「企業が教育に関わる意味」をテーマに、「クエストエデュケーション」という探求型のキャリア教育プログラムに取り組む生徒、先生、企業人をパネリストに迎え、トークセッションを行いました。 「クエストエデュケーション」とは、全国80校の中学・高校で導入され、1万人の生徒が年間を通して学ぶプログラムです。教室にいながら、実在の企業にインターンシップし、フィールドワークやアンケート調査に取り組みながら、企業理念や文化、働くことの意義や喜びについて学びます。コース後半では、企業から出される課題にチームで取り組み、その答えを、企業を相手にプレゼンテーションします。この日は、昨年、「クエストエデュケーション」の最終発表の場である「クエストカップ全国大会」に出場した東京都立芦花高校の生徒2人と、彼らをサポートした秋本嘉一先生、企業からは大和ハウス工業CSR部の小川泰史さんに参加していただきました。コーディネイターは、未来教育会議の実行委員も努める、教育と探求社の代表、宮地勘司氏です。
まずは、生徒2人に、「クエスト体験」とはどのようなものだったか、聞いてみました。
「スカパーJSATの課題に取り組み、人工衛星についてなどネットでいろいろ調べるうちに、それまでは苦手意識から避けていた理数系の教科に自然と興味が沸いてきました。ほんとに探求って楽しい!って思いました」
「自分は、プレゼンとか苦手だったんですが、今日こんな風にみなさんの前でお話が出来ていることがそもそもすごいと思うんです。こんな機会も、前の自分だったら先生に誘われても絶対断っていたと思うんだけど、今回はとりあえずやってみようと自然に思えました。そして実際に来てみたら、こんな風にみなさんとも知り合うことが出来て良かったと思うし。そんな風に人生の可能性って広がるんだと思います」
生徒たちの本質を突いた発言に、会場の大人たちも驚きながら、頷き、耳を傾けます。
生徒たちの発言を温かく見守る秋本先生は曰く、
「私は何にもやってません。生徒が勝手に考え出すんです。放課後になっても帰らずに、延々と話している。だから私はお菓子を買ってきて差し入れするだけなんです(笑)。生徒たちの持っている力ってほんとにすごいな、と思います。教員こそがもっと学校の外に出て成長しなければならないですね」
インターン受け入れ先の企業として、毎年数千人のインターン生の学びをサポートしている大和ハウスの小川さんは、年間を通して何十校も訪問しています。そのときの自らの心構えを以下のように語ってくれました。
「1回学校を訪問しても、ひとりの生徒と触れあえるのはほんの数分だけ。その一期一会の刹那の機会に、その子の生涯に残る問いを投げかけられるか、それを自分に課しています。なかなか難しいけど、それが学校に行く大人としての構えだなと思います」
そんな小川さん、ある学校を訪問したときのエピソードを披露してくれました。
「そのクラスは男子生徒が多く、照れもあったのか、中間発表の際『真面目に取り組むのはダサい』といった雰囲気で全く真剣味を感じませんでした。なので、私はよく考えた上で言ったんです。君たちとは一緒に仕事をしたくない。大和ハウスには来なくていい!と。ホントはひやひやだったんですが(笑)。でも、それからしばらく経って最終発表を見に行ったら、彼らが一番素晴らしい発表をしてくれたんです。終わった後も、私のそばに一番にやってきて、僕たちどうでしたか?って。そのときはほんとうれしかったですね」
全てのパネリストが、偏差値だけでは測れない心の成長、生きる姿勢や人間の幹を太くすること、そして、そのことが人の人生をどれだけ豊かにするのか、そんなひとつの同じ視点から語っているようでした。
秋本先生は語ります。
「今の教育は教えすぎですよね。探求がはじまると、自然に生徒たちは動き始めるんです。そして止めろと言っても止まらなくなる。発表日の前日になっても、ここは違うんじゃないのかなとか、こっちの方がいいんじゃないの?とか、正直、もうその辺でいいのでは?とこちらが思うところがあるくらい(笑)。そんな活動を通じて、生徒たちは本当に変わっていきます。ここにいるこの生徒たちも、皆さん、大分しっかりしていると思われているかもしれませんが、学校の中では普通の子たちです。そんな普通の子たちの中に、そんな大きな力があるんですよ」
大和ハウスの小川さんは自らの学びについても語ります。
「実は企業も、生徒たちからたくさんのことを学んでいます。一つ目は、生徒さんたちのひたむきさです。全国大会に向けてがんばり抜く様子を見ていると、本当にすごいなと思います。負けられない、自分もがんばらなくては!と思えてきます。二つ目は、未来志向の柔軟な発想力です。企業にはイノベーティブな側面があります。実は生徒たちも、最初エンジンがかかるまで型にはまった発想しかなく、企業人からの言葉を受けて『こんな考え方をしてもいいんだ』と頭がほぐれてきます。そして最後の方になると、俄然レベルアップしてきます。普通では考えられないような独創的なアイディアが説得力を持って提案されてくる。これは驚くばかりで、もはや企業からは何もアドバイスができないレベルになります。三つ目は、生徒の目から見た自社の価値について知ることができることです。大和ハウスの良さを言ってくれることもあれば、ダメ出しをされることもよくあります(笑)。私たちが世の中に伝えられていると思っていることが全く伝わっていなかったり、彼らのまっさらの目で大和ハウスがどのように見られているのか、大変勉強になりますね」
そして企業が教育に関わる意味について以下のようにまとめました。
「大和ハウスは積極精神のもと、共創共生=共に創る、共に生きるという言葉を大切にしてきました。大和ハウスだからこそ伝えられることを伝え、このようなかたちで教育に関わることは、当社にとって欠くことの出来ない社会貢献であり、地域貢献です。生徒たちにたくましく育っていただき、そのプロセスに関わることで、企業人も気づきを得て、学び、成長する。そんな循環をつくっていきたいですね」
2人の生徒は、それぞれ希望の進路をみつけ、今春、無事高校を卒業していくそうです。未来を見つめる彼らの瞳はどこまでも碧く、輝いていました。
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