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  • 未来教育リポート
  • 2015.04.22

「未来を創りだす」-サステナブルな社会の実現- |アショカジャパン創設者&代表理事・渡邊奈々氏からのプレゼンテーション (未来教育会議シンポジウム2015リポート④)

2014年3月7日に開催させていただいた「未来教育シンポジウム2015」より、
アショカジャパン創設者&代表理事である渡邊奈々氏からいただいた
プレゼンテーションをご紹介させていただきます。

 

「未来を創りだす」―サステナブルな社会の実現―というタイトルで、

社会起業家を育てる教育への取り組みと21世紀の大人の事例についてお話いただきました。

21世紀型の組織・教育・リーダー・企業に関するお話を伺える機会となりました。

アショカとは

アショカとは、世界最大のソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)のネットワークであり、利他的な目標のために活動するイノベーターから成り立つグローバルな社会改革のシンクタンクです。米ワシントンの本部と世界 34カ国に運営支部を持っています。

「ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業)」という概念は、社会福祉とビジネスという、相反する基準やアプローチを持つ2つのセクターを融合させることで、社会の歪みがより迅速かつ効率的に改善されるという発想から1970年代に生まれました。
この概念の生みの親であるビル・ドレイトンは、概念を具体的な目に見える活動として推し進めるため、1981年に米ワシントンでその活動の運営母体としてのアショカを立ち上げました。

以来、「誰もがチェンジメーカーとなる(Everyone-A-Changemaker)」世界を築くという目標を掲げ、そのための様々なアプローチを展開しています。
若者を対象とした「ユースベンチャー(Youth Venture)」や、企業を対象とする「ハイブリッド・バリュー・チェーン(Hybrid Value Chain)」の取り組みがあります。
創立以来33年間でアショカの定義にかなった社会起業家(アショカフェロー)を3000人近く80カ国から選出しており、社会を根本的に変革する能力を秘めるイノベーターを世界中で年間200人発掘することを目標としています。

アショカフェローは、各々が活動する分野の変革に関わる第一人者であり、政策の変更などに国レベルのインパクトを及ぼしています。

アショカジャパンとユースベンチャーとは

アショカジャパンは、東アジアでの最初の拠点として2011年に発足し、2015年2月までに4人のフェローを選出しています。
また、若者対象のユースベンチャーは、2010年から2011年にパイロットを実施し、2012年から本格的に動き始めています。2015年2月までに、52チーム(各3~5人のメンバー)が誕生し、東北の問題に取り組むチームが42チーム、その他の問題に取り組むチームが10チームあります。ユースベンチャーは、教える・導く・メンターする・規則を設定し破ると罰するといった従来的教育の要素を一切取り除いた環境を大切にしています。

12~20歳を対象としており、「これはおかしい」と気付いた社会問題を軽減するための具体的なアプローチを考え、実行する決意のある若者に対し、審査パネル(年間4~5回)にパスするとユースベンチャラ―として認証され、一年間の実験の環境が与えられます。

ユースベンチャーコミュニティのカルチャーは、エンパシー(他者の気持ちに自分を重ねる能力)を持つ努力を怠らないこと、内省する能力を意識して磨くこと、行動する勇気を持つこと、失敗から学びを得て前進する能力を高めることが挙げられます。

「社会をよりよくするため、あなたは社会における問題に関与したいと思いますか?」という問いに対して、「どちらかといえばそう思う」もしくは「そう思う」と答えた人の割合が、一般では44.4パーセント、ユースベンチャーリーダーでは93パーセント、ユースベンチャーチームメートでは91.5パーセントであったという調査結果も出ています。

一度やると決めたことに対して、何か失敗することがあったとして、大人が手を貸したり口を出したりせず、自分たちでやり遂げることを重視している結果が表れていると思います。

 

現在は20世紀社会から21世紀社会の移行期であり、この移行期は30年ほど前から始まっています。21世紀社会が本格的にスタートした時に、人々がいきいきと生きられるように警鐘を鳴らす役割をアショカは担っていると、渡邊氏はアショカジャパンの役割を定義されました。

20世紀型の組織・教育とは

030715未来教育会議.final従来ピラミッド

21世紀型の組織・教育・リーダー・企業について考える前に、20世紀型のそれを振り返ってみましょう。

20世紀型の組織の構造は、ピラミッド型であることが多いです。

少数のリーダーが上位に君臨し、その下にマネージャーなどの管理職がいる。そしてその下には多くのスタッフが存在します。リーダーからの指示がマネージャー層に届き、マネージャー層がスタッフに指示を出します。スタッフは上からの指示に従う形で仕事を行います。

このようなピラミッド型組織のメンバーをつくりだす教育は、1wayであることが多いです。

先生(大人)が正解を生徒に教えることで、権威者の意見が正しいというメンタルモデル(根深い思い込み)が生徒に刷り込まれます。

教育の受け手である生徒は、自分の意見を言わず、ただその場に存在しているのです。

そうすると、無意識的に権威者に従うというパターンが生まれます。

このような組織では、「素直に従うこと」が「問うこと」よりも重要視されているのです。

また、権威である先生が規則を生徒に教えると、規則に従うことで社会や組織に受け入れられ、メンバーの資格が得られるため、規則に疑問を感じたとしても、規則をつくりだした権威は絶対であるというメンタルモデルが浸み込んでいるため、自分の意見を他の誰かに伝えるということはあまりありません。

このような教育を受けた人は、ピラミッド型の組織では使いやすい人間となるのです。

従順な人は育ちますが、与えられた知識や見解を「問う」力・自分で考え、意見を形成する能力・創造性や想像力は育ちません。

固定化した社会構造の中で与えられた役目を正確に果たす人材としては最適ですが、目まぐるしく変化する社会では役に立たないのです。

近頃、何十年後にはなくなっている職業といった記事が世に出回っていますが、このような教育を続け、組織体制を維持しようとしても、限界がきていることがわかります。

これ以上20世紀型の人材が増え続けると、21世紀を生き抜くことは厳しいのです。

 

21世紀型の組織・教育とは

030715未来教育会議.finalフラット

それでは、21世紀型組織はどのような構造なのでしょうか。

このような組織では、一人ひとりが考え感じたことを掘り下げ、他者の気持ちを理解することが基本ルールとなっています。全ての意見が有効で、ボスの意見だけが通るわけではありません。色々な意見を尊重しつつ、自分の意見も伝えることは難しいけれど必要なのです。

030715未来教育会議.final21c型

フラットな組織をつくるための教育とはどのようなものでしょうか。

自由に意見を交換することができるので、とてもカジュアルでリラックスしています。もちろん配慮は必要で、何でもずけずけと伝えるというわけではありません。

基本的な合意として、ひとつの正解ではなく一人ひとりの答えが全て有効であること、21世紀は絶対的な答えがない時代であるため、自分の答えを探求するプロセスそのものが人生であること、先生や上司といった立場を超えて人と人とのコミュニケーションをする能力を育むことが人生を豊かにすることが挙げられます。

また、あるグループのみで有効な規則ではなく、人間として本質的な基準を重要視します。

本質的な基準とは、エンパシー(他者の気持ちに自分を重ねる能力のことであり、共感や共鳴とは異なる)、おかしいと思ったことを誰かのせいにしたり、見て見ぬふりをせずに自分自身が解決に取り組む勇気、成功しなかった場合に諦めずに立ち上がりチャレンジし続ける力(レジリエンス)、自分の頭で考え、心で感じたことを掘り下げる内省力のことを指します。

このような21世紀型教育が成功するためには、大人である私たちが変化する必要があると考えます。

先生や親などの大人が「教える人」ではなく「インスピレーションときっかけを与える人」へ変わること、自分自身を内省し、自分の内面のもろい部分についても子どもたちの前で語れるオープンさを身につけること、自分と子どもたちが対等な個人であることを腑のレベルで認識すること、子どもたちに質問を投げかけることによって生徒が内省し、自分の考えや気持ちを探るきっかけを与えること、先生はファシリテーターとしての能力を磨くこと、子どもたちが人前で言いにくいような意見や体験、感じ方をみんなの前でも話しやすい雰囲気をつくる能力を磨くことが必要なのです。

21世紀教育が目指す人間像、リーダー像とは

組織と教育について、20世紀型と21世紀型を比較しました。

それでは、21世紀型教育が目指す人間像とはどのようなものでしょうか。

自分、自分の家族や友人を超えて、あらゆる人々が幸せになることが、自分の幸福感や満足感につながる人間、自分が幸福感、満足感を得るために、あらゆる人々を幸せにするためのシステム・サービス・物などをつくりだす極めて複雑で高度な能力を備える人間のことを指します。

こういった人材を育てる教育に変えていきたいと考えていると、渡邊氏は仰いました。

この人間像をもとに、21世紀型のリーダーについて考えてみましょう。

アショカが定義するリーダー像は、地球上の全ての人々が幸福になる社会をつくるチェンジメーカーです。

このチェンジメーカーは、昔は変わり者や変人と呼ばれていましたが、今はソーシャルチェンジメーカー(社会企業家)と呼ばれています。

アショカが選出したチェンジメーカーには、以下の人がいます。

メリー・ゴードン(Mary Gordon)は、エンパシーを高める教育法を開発しました。ルーツ・オブ・エンパシーの創設者+CEOであり、「心の教育」の第一人者です。

読み書き能力といったリテラシーならぬ「感情リテラシー」の概念と呼称を生んだことで知られます。5~15歳を対象に、全カナダ・米シアトル市・英国ニューキャッスルなどの3都市、独ベルリンなど3都市、スイス・チューリヒ市などでプログラムを実施しています。

50万人を超える子どもたちが参加しています。

このプログラムの原則は、感情について考えることです。

例えば、子どもたちは以下の問いについて自分自身で考えます。

「メリーはりんごを5個持っていました。ジョニーがやってきて2個持って行ってしまいました。この時、メリーはどんな気持ちになりましたか?」

このように、自分の感情(怒り、悲しみ、落胆、喜び、嫉妬など)にフォーカスし、言葉で表す訓練をするのです。

そうすることで、子どもたちは他の人の気持ちに敏感になります。

ブリティッシュコロンビア大学の調査チームが、このプログラムを9か月受けた後の子どもたちを調査したところ、いじめや暴力が90パーセント減ったということがわかりました。

今まで重視されていなかった「心の教育」に着眼し、いじめや暴力を対処療法的に解決するのではなく、根本的な解決策を探ったメリー・ゴードンは、21世紀型のリーダーであると言えます。

ジム・トンプソン(Jim Thompson)は、若者スポーツコーチングの従来のメンタルモデルを覆しました。人として成長すると同時に強いプレイヤーになるコーチ法を開発したチェンジメーカーです。
ジムは、自分の魂に従って44歳の時にPCA(ポジティブ・コーチング・アライアンス)を創設しました。それまで、ずっと探求し続けていたのです。

「勝つ」と「人間的成長」のダブルゴールを目指す若者スポーツコーチ法を開発し、2014年までに全米600万人の小中高生がPCA法で訓練を受けました。2020年までに2000万人までに広げる見込みです。

PCA法の原則は、「今」に全力を投球する心理的訓練が人間的な成長とアスリートとしての強さにつながることです。

得点は気にせず自分の能力を磨くこと、コーチは若者プレイヤーを細かく観察するスキルを磨き「良いところ」を口に出して伝えること、「失敗」は問題ではなく「失敗を恐れること」がプレイヤーを弱くするため、失敗を恐れないようになる心理的訓練をすることで、結果的に若者プレイヤーはより良い人間として成長し、試合にも勝ち続けるのです。

ジムもまた、既存の考え方に対して疑問を持ち、自分の魂に従って新たなシステムを生み出したチェンジメーカーです。

21世紀型の企業チェンジメーカーとは

21世紀型の組織・教育・人間像・リーダー像について学んできました。

この延長で、21世紀型の企業について考えてみましょう。

21世紀型の企業チェンジメーカーとして、ユニリーバ(Unilever)が挙げられます。

ユニリーバは、1884年英国のリーバ卿が創始し、衛生的な生活習慣がない英国で「体や家を清潔に」という新しい価値を提唱し、「サンライト石鹸」を開発、販売しました。

19世紀の英国では労働者の権利が十分に守られておらず、リーバ卿は石鹸工場で働く人のために学校や病院のある町ポートサンライトを建設し、労働者の環境を変えました。

このようなバックグラウンドがあるユニリーバですが、近年もチェンジメーカーとして活動し続けています。

2010~2020年のユニリーバの戦略は「ザ・コンパス」です。

2020年までに、売り上げを2倍・環境負荷を半分・少なくとも10億人がより衛生的で健康的な習慣をみにつけるための支援をする・ビジネスを成長させながら、数百万人の暮らしの向上を目指すことが挙げられています。

それぞれの分野について、数値目標およびアクションプランを設け、毎年社内外に進捗を発表しているのです。

また、ユニリーバは四半期決済を取りやめています。この決定について、株主が怒るのではないかという意見もありましたが、であれば株を買わなくても構わないという強い意志がありました。

20世紀のように企業利益を追求するだけでなく、広く世の中に利益を還元していく仕組みをつくりだしているのです。

 

渡邊氏のお話を通して、自分だけでなく他の人々が21世紀を幸せにいきいきと生きるため、自分に何ができるのかを考えることができました。

このように大きなパラダイムシフトの話は難しい、理論は理解できるが実行に移せないと感じる方もいらっしゃるかと思いますが、まずは大人である私たちが出来ることから一つずつ始めてみる必要があると思います。

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  • ライター

未来教育会議 実行委員会

未来教育会議実行委員会です。

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