- 実行委員会の活動
- 2018.11.26
デンマークで人が一生学べる学校を立ち上げる日本人女性―ニールセン北村さん
人が一生学べる学校をデンマークで創設する日本人女性ニールセン北村さん
デンマークで人が一生学べる学校を立ちあげる日本出身の女性がいる。ニールセン北村さんだ。
彼女の立ち上げようとしている学校とはどのようなもので、どうしてそのような学校を創ろうとしているのだろうか?未来教育会議でインタビューを行った。
人が一生学べるデンマークの学校=フォルケホイスコーレとは
デンマークには、17.5歳以上、年齢の上限無しで入学が可能なフォルケホイスコーレと呼ばれる学校がある。人はいつ学びのタイミングが訪れるかわからないし、年齢がいくつになっても学び続ける権利があるということをまさに体現した学校だ。
デンマーク全国で68校ほどあり、それぞれの学校に、音楽や演劇などの芸術、スポーツ、国際問題、福祉、ジャーナリズム、食、英語で世界中から人を呼ぶインターナショナルな学びなど、様々な特徴がある。この学校では習熟しなければならない単元や入学試験や卒業試験もなく、また単位や学位も出るわけではない。しかし、その代わり、人生の中でゆっくりと自分を見つめ直すことが出来る。私たち未来教育会議が2015年に訪れたIPC(International People’s College)という学校では、ハンガリー出身の金融のトレーダーのキャリアから教師に転職する人生の決断をした30代の女性や、デンマーク人の90代の男性、20代の日本人etc、実に様々な学生がいたことに驚かされた。
歴史的な経緯をたどると、フォルケホイスコーレは、デンマークの農民学校に端を発する。1800年代に、戦争で、国土、人、資産など全てを失ったデンマークでは、国王が「私たちは、戦争で全てを失ったが、この上さらに馬鹿になる必要はない」と語ったとされる有名なスピーチがあり、ここから教育によって国を復興させていくデンマークの国づくりが始まっている。実は義務教育を世界ではじめて制定したのはこの国だ。実に200年前のことである。(私たちが、教育養成大学を訪れた2015年はちょうど義務教育200年を祝う周年事業が行われていた)
デンマークは、教育によって、市民のレベルを向上し、市民主導の民主主義へと変貌を遂げていく過程で、全ての国民が、政治に参加していく国づくりを行っていった。フォルケホイスコーレはグルントヴィが農民を含めた成人教育の理念を提唱し、それが政府の後押しもあって形になったものだ。今日では、リベラルアーツ的な特徴も加わり、デンマークの教育や人づくり、国づくりのまさにシンボルとなる存在であるといえよう。
ニールセン北村さんってどんな人?
そんなフォルケホイスコーレを、新たにデンマークで創設しようとする日本人女性、ニールセン北村さんってどんな人なのだろうか?
彼女は、現在デンマークのロラン島に住んでいる。ご存知の方も多いかも知れないが、この島は、風力発電が有名でエネルギー自給率700%とも言われている。彼女は、ここで、環境や再生可能エネルギーに関わる情報発信を行っているジャーナリストであり、また、日本からの要人の視察や様々な人々のコーディネート業を行っている。
Q 若いときはどんな過ごし方を?
中学までは、勉強は良く出来る方でした。高校では受験勉強の意味がよくわらかなくて、その当時は、早く社会に出たかったので短大を選んだけれど、勉強自体はつまらなかった。
仕事はインテリア業界に入って、最も成績が悪い閉鎖寸前の部に配属されました(笑)。こうすれば売れると言いたいことをはっきり言ったら、怒られちゃってお前やってみろ!ってことになり、セールスプロモーションの担当になりました。商品の背景のストーリーや、こう売ってほしいんだという気持ちを全国の営業マンに伝えることをしたら、ものすごく売れちゃって。商品に込められた気持ちが分からない人にはこっちからお断りしますって感じに(笑)
当時、仕事を通じて英語が出来ないコンプレックスがあって、会社を辞めて、道路工事の警備員などもしながら語学留学して英語を学んでいきました。
その後、英語を使う会社に勤めたのですが、どうせなら英語を使った特殊な仕事をしたいと思い、映像翻訳の学校に1年通い、その後に映像翻訳家として独立をしました。
スポーツ番組の仕事が多く、趣味も高じてサッカ—関係でヨーロッパによく行きましたが、オランダやベルギーからの帰りに飛行機で隣に座っていた人と知り合い、その後結婚してデンマークに住むことに。
(のちに、ロラン島の再生可能エネルギーのことについて発信するジャーナリストとなり、また、日本とデンマークを繋ぐ役割を果たしていくことになる。)
私は、長期プランが立てられないタイプで、その場、その場で全力で考えて決断してきた結果が今、ここにあるんだと思います。
北村さんがデンマークでフォルケホイスコーレを設立する理由 自分発見の場
自分発見の場
Q北村さんの考えるフォルケホイスコーレって何ですか?
一言で言えば自分発見の場。人は自分を知ることで、社会の中で、自分がどんな存在で、どんな風に役にたつことができるかって理解できていけるんだと思います。
大人になると、やりたいことを忘れたりあきらめたりすることが増えると思うけど、好きなことには、かならず理由がある。
それをあきらめずに、社会の中で活かしていくには、どうしたらよいかそれを考える場と時間があればいい。そういう感覚を取り戻せることには意味が有るんです。
大学以外の貴重な学びの時間
Q何故、フォルケホイスコーレを設立しようと思われたのですか?
まず、フォルケホイスコーレを創りたいと思ったのは、今のデンマークがあるのはフォルケホイスコーレがあったからとひしひしと感じているから。
国を支えるのは教育と実感しているし、息子のいろんな教科書を見ると、デンマークの教育が直接デンマークをつくる土台になっていると実感できる。
震災以降は多くのスタディツアーを受け入れ、みなさん再生可能エネルギーをはじめ福祉、農業、企業、起業の現状を見たいという目的なわけですが、でも、なぜそういう考えにいたったのか、再生可能エネルギーや持続可能性に早くから注目しているのか、、、というと、やっぱりその根底は教育にある。
デンマークの歴史をみてきても、今の国会議員の半分くらいは実はフォルケホイスコーレを出ています。ここは大学以外の貴重な学びの時間となっていると思います。
まずは、デンマークで。そして日本の人に来てほしい。
それと、こうした感覚をもっと日本の人ともシェアできればという気持ちが強くなったんです。
ロラン島で視察研修をたくさん受け入れるようになったのですが、もっと腰を落ち着けて来てもらえるプラットフォームのような場があるとよいと思いました。
学歴や経歴で人を判断する人もいると思うし、私はそうしたブランド的なものを持ってはいないけれど、私を通して、出会ってもらえる人は、私の肩書きではなく、多彩な人たちがいっしょにやっているプラットフォームに信頼を置くと思っています。
わたしが日本に来るときに思うのは、日本の人はとにかく忙しい。人と会おうとなるとデンマークの人は何とか時間をつくる。完璧な場を用意できなくても、何とか話せる時間をやりくりする。日本の多くの人は、それすらもできないくらい忙しい。人生を振り返るどころか、一年を振り返ることも出来ていないのではないか。元旦くらいかな(笑)
ほんとうに忙しいのかどうなのか、分からなくなっている人が多いんじゃないかな。本当に、それをあなたが今やらないといけないことなのか?大事な友達や家族との時間も、後回しになっている現実。忙しいにもほどがある!そこから少し離れて振り返る時間をもってもいいんですよ、というメッセージと場を提供したい。そうして「時間の持ち方」のメンタルモデルを変えていければと。
でも、それを今、日本でやっても、受け入れられないのではないかと感じるんです。いずれ出来たらいいと思うけど、まずは海外で距離のある離れた所の方がよいのではないかと考えた。なので、まずデンマークでやってみたい。そういう考えがだんだん認知されてきているように感じるので、近い将来には日本でもできるのではないかと思っているんです。
ニールセン北村さんのお話から、彼女は学校を作るということの先に、日本とデンマークや世界の人々が、互いによいものを引き出し合い深いレベルで交流したり、創発していくことの出来るプラットフォームとなるような場を見据えているように感じた。
民主主義と教育
デンマークの教育や学校の話を知れば知るほど、民主主義や国づくりと結びついていることを改めて認識することとなる。未来教育会議では、ニールセン北村さんにこのテーマについてさらに深く質問をさせてもらった。
Q デンマークでは民主主義に対する想いと教育のあり方が一体化しているように感じます。北村さんの見方は?
民主主義は勝ち取ったもの。守ってないと取り上げられるという危機感がある。
デンマークでは、民主主義は勝ち取ったものという意識があると思います。そして、国民が一生懸命守らないと、すぐに取り上げられてしまう可能性や危機感を根っこに持っている。また、民主主義は生きもので万能でもない。時代に合わせ、変容を遂げる民主主義の方向性を決めるのは、私たち国民だという自負がある。
逆に日本は“戦後”と一緒になって入ってきているので、与えられたものという感覚や、空気みたいにそこにいつもあるのが当たり前のものという感覚なのかも知れない。そこがすごく違うと思います。
デンマークは、はじめて1849年に民主主義憲法をつくった。そして王政から民主主義になっていく過程で、その環境を整えていくために憲法が制定される前の1844年にフォルケホイスコーレなどもできている。みんなで学んで民主主義を作り上げていこうというプロセスがデンマークにはあったんですね。19世紀、デンマークは戦争に負けて、国土が小さくなってしまっていて、人=教育で復興していくのだという根本の思想がそこにあった。
フォルケホイスコーレのためにグルンドヴィが書いた詩をもとにした歌集があって、フォルケホイスコーレではこれが今でも歌いつがれているんですよ。国民みんなが世代を超えて歌える歌があり、それが今も受け継がれ毎日どこかで歌われている、というのは、実はすごいことなんだと思います。デンマーク人の国民の連帯感をひしひしと感じます。
Qフォルケホイスコーレは17.5歳以上の成人教育の学校ですが、デンマークでは、発達段階〜成人までの人の一生の学び方がすごくよくデザインされている気がします。いかがですか?
何が自分たちにとってベストか、幼稚園、小中学校、高校・・・などそれぞれのレベルでそういうことを考える機会があるというのがポイント。いきなり大人になって考えるのではなく、それぞれの段階でずっと考え対話してきているのが大きい。そこを感じます。
そして、ちょうど幼稚園から小学校に上がる時、中学から高校に上がる時、高校から大学に上がる時、大人に成ってから壁に当たったとき、と、いわばギャップイヤーでの仕組みがよく出来ている。ギャップイヤーに当たるところで自分を見つめ直したり、自分が社会で何の役に立つのかを考えたりする時間が上手く用意されているんです。
*デンマークでは、幼稚園の年長組の子の部屋が小学校にあったり、中学から高校に上がる段階で、エフタスコーレと呼ばれる自分の可能性を模索できるような学校がある。私の息子も、今年の夏に義務教育の9年間を終えて、今は、自主的に選択して10年生としてエフタスコーレに行っています。1年間の寄宿舎生活です。その間、好きなことをやりつつ勉強も進めながら、この後やりたいことを考えながら、次の教育を選びます。
設立するデンマークでのフォルケホイスコーレの構想について
200年前に、スクールが始まった地で最高の学びを。
●1セメスター 60 〜80人
●春3ヶ月 秋4ヶ月
●持続可能でしなやかな社会作りを目指すために、食と農業、漁業を中心に、民主主義、社会学、政治学、国際情勢、 再生可能なエネルギーとテクノロジー、地方自治などを学びたい人
●ロラン島は200年前の義務教育の前にすでにスクールを開いていた。農民教育をデンマークではじめたところを場所として利用できそう。
●デンマーク人の若者2人とニールセン北村さんが中心となって設立準備を行っており、9人のメンバーで構成される理事会で運営を行っている。
日本人の皆さんへのメッセージ
それは自然なこと。一歩を踏み出す勇気を。
私は人より立ち止まる経験がたくさんあった。80年〜100年の人生で1年や2年海外に行ったってたいした問題じゃない。
人生80年としたら、三週間くらい、もしくは三ヶ月、半年海外にでるのは、全然悪いことじゃない。そのくらいの期間、自分をよく知る時間をもち、見つめ直す時間をもつことは自分のためはもちろん、周りの人のためにもなるし、すごく必要なことだと思う。ぜひそういう機会にしてほしいと思う。それは自然のことだから、ぜひそういう一歩を踏み出す勇気をもってほしい。
私自身がアメリカに一年間いて思ったことは、いかに自分が知らない事が多いかを思い知ったし、自分の国を知ることにもなる。自分を知って、自分の国を知る事は、自分の生きる社会を考える事。その中での自分の役割を考えていける。
仕事だけが人生ではないし、仕事以外のことにも時間をつかっていいんだよ、と気づいて欲しいです。その方が、仕事を含め、それ以降の人生の充実につながっていくと思います。人は、それぞれ社会の中で役割がある。最近は副業OKの企業や組織も増えてきたけれど、自分が好きで続けたいこと、社会に役立つスキルを持っている人は、それを存分に使える社会にみんなでしていければいいですね。デンマークでは、人口が少ないこともあり、一人で何役も担うのが普通の社会ですが、少子高齢化が進む日本でもそうあれれば、社会構造全体のセーフティネットにもなりますよね。そのためには、自分に与えられた時間をどう使えば、自分、家庭、社会、仕事の中で一番自分にとって嬉しく、自分らしい生き方ができるのかを立ち止まって考える時間を、自分にプレゼントしてあげるのがいいのではないでしょうか。
筆者あとがき:未来教育会議 兎洞武揚
私の印象では、ニールセン北村さんはゆっくりとお話をされる方だ。私は、彼女とお話をさせて頂くと、大事なことは急がなくてもそこにあるから、と言われているような気がしてくる。自分のうちにある大切なものから、社会に関わっていくこと。こうした人の育ちが社会にもまたプラスに働いている。フォルケホイスコーレについてのお話を伺うと、表面的にデンマークの良いところを捉えるのではなく、もっと根っこのところで、教育や社会のことについて考えることが出来ると思う。そうした意味で、デンマークの教育や国のあり方から、私たち自身がどうしてきたいのか?と学ぶことは多い。
速報! 2018年12月7日 未来教育会議セミナー開催のお知らせ 「リカレント教育と食と農業、漁業の未来を考える」 〜デンマーク発 : 食と農業、漁業にフォーカスしたフォルケホイスコーレとは~
未来教育会議では、ニールセン北村朋子さんとプロジェクトリーダーのNikolaj Frostさん、Sidsel Esther EJRNÆSさんの3名をお招きしたダイアログ・セミナーを開催します。
この機会、みなさまのご参加をお待ちしております。
開催概要
日時: 2018年12月7日(金)18:30-21:00
場所: 東京都港区 ※詳細はご参加者のみなさまに後日お送りさせていただきます。
主催: 未来教育会議
共催:フォルケホイスコーレ・ロラン・ファルスタ設立準備委員会
定員: 40名
参加費:2,000円
プログラム
18:30-19:30 フォルケホイスコーレの構想プレゼンテーション
19:30-19:40 休憩
19:40-20:20 ダイアログ1「リカレント教育の未来」
20:20-21:00 ダイアログ2「持続可能な社会に向けた食・農業・漁業の未来」
【登壇者】
ニールセン北村朋子氏(ジャーナリスト、コンサルタント、コーディネーター。フォルケホイスコーレ・ロラン・ファルスタ設立委員会理事補佐)
Nikolaj Frost氏(リージョン・シェラン・教育コンサルタント。フォルケホイスコーレ・ロラン・ファルスタ設立プロジェクト代表)
SIDSEL ESTHER EJRNÆS氏 (教育学を学ぶ大学生。現在は大学を休学し、森のようちえんでアシスタントを務める。この後、有機農業、持続可能な農業を学ぶ予定。フォルケホイスコーレ・ロラン・ファルスタ設立委員会理事)
※プログラムの内容・時間は予告なく変更させていただく可能性があることをご了承ください
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