PREV
NEXT
  • 未来教育リポート
  • 2016.02.01

【後半】海外のICT教育先進国では、ICTを教育にどう活用しているのか? ~ICTで実現される学習者主体の学びの仕組み~

※この記事の前半はこちら

https://miraikk.jp/cat-01/1932

ICT導入で、先生同士のコミュニケーションも評価の仕方も変わる

ICT導入で、クラス間の情報共有が出来るようになると、ブログの無い先生は、「隣のクラスはブログで積極的に活動を公開しているのにどうして?」と生徒から言われることもあるようだ。ICTが導入され始めると、生徒に催促されICTを使わざるを得ない状況になるというケースもある。また、先生から子どもへのブログが充実しているクラスとそうでないクラスが一目瞭然となり、保護者からも、先生の活動がリアルに分かるようになる。だから先生も大変かもしれないが、頑張っただけの評価も集りやすく、「頑張ろう」と思うという。

 

このように、先生も情報共有によってモチベーションが高まるし、他の先生との効果的なコラボレーションもし易くなることもある。例えば歴史の先生が「この時代について教えているので、国語もその時代を舞台にした物語をやろう」とか、「理科ではその時代の科学者が行った事を教えよう」とか、教師間で教える事を上手く絡め、子どもの学びのモチベーションや学習効率を高める取り組みが教務室などの場で話し合われるという。また、子どもたちを主体として学びを捉えなおすといった取り組みがおこなわれている。これはLearner Centered(学習者中心)となる学びの1例である。教師が一方的に「これを教えよう」とするのではなく、学習者の学びを如何に効率的に行うか、そういう風に発想を転換させている。学習指導要領もそういった考えで改変、縮小させ、教師がそういった発想にシフトしやすい仕組みを国が作っているケースもある。

 

このLearner Centeredを実現する為に、北欧の学校では、教務室をサロンのようにして先生同士の会話がし易くなるような環境を作ることに努めている。また、国も学習指導要領を薄くして教師の裁量を広げる事で、先生達がフレキシブルに動けるようにしている。

先生側の研修方法について

先生の育成も、モチベーション別・スキル別・教科別・興味別で分けて、少人数のグループワークを中心にして行っている。そうする事で、例えば「自分は国語の先生だが、授業で生徒に見せる映像を制作する為のスキルを学びたい」というような個別の要望にも対応し易くなるし、先生としてもモチベーションが上がるので、学びの効率も高くなる。

海外の先生と日本の先生との違いについて

私も教員をやっていたので理解できるが、日本の先生はすごく大変だと感じる。先生は朝から晩まで、中には、毎日夜の9時頃まで働く先生もいる。

 

一方、海外では先生は午後3時~5時に帰宅する場合が多い。その余裕は教員の仕事は「学習に関すること」という考え方から来ていると思われる。

 

日本は教材費の徴収とか、アンケートの回収など、事務処理の仕事もすることがある。職員会議も少なくないし、小中学校には昼食指導もある。

 

実際、「これは事務担当の仕事なのではないか?」と思うことまで先生の仕事となっている。また、部活の顧問は、土日も部活の為に働いていて、休みがほとんど取れないという場合もある。
海外の学校では、日本のような部活動は無い。学校を解放することはあるが、学校の先生が教えるのは法律的に無理なケースが多い。例えば国語の先生がバスケットを教えるとかは無理である。何故ならそれを教える為の免許もスキルもないからである。中国の先生にもインタビューしたが、そこでも部活は無かった。また、授業もそれ程詰まってはいなかった。常勤の小学校の先生でも勤務は毎日でも授業を持つのは週に3日という先生もいた。

 

また、海外の先生にインタビューすると「日本の先生は大変忙しい」という事を知っている人は結構いた。一方で、知らない先生は、遅くまで勤務することを、「信じられない」と言われるケースもあった。

日本のICT教育のこれからについて

日本の学校の教室は、プロジェクターが置いていない所がある。日本の教室の設備はここ数十年間、殆ど変っていないという学校もある。

 

海外の学校視察に行くと、教室の機器が日本製であることが少なくない。そういった国では日本の学校教室はIT機器がものすごく充実しているのではないか、というイメージを持っている教員が少なくなかった。勿論、電子黒板を入れているような、ICTに先進的な学校もあるが、現状としては、1人1台タブレットの学校はまだまだ多くない。

 

教育のICT化を進める際には、子どもにも事前にある程度ICTリテラシーを付けておく事が大切。また、教職員だけでなく、保護者や自治体、教育委員会などの大人もリテラシーがなければならない。国の方針で、ICT教育推進に向かっているので、子どもだけでなく、国民1人1人にリテラシーがなければならない。例えば、これからICT機材を導入する時に、「一斉に入れるのか徐々に入れるのか?」「サーバを学内と学外のどちらに置くのか?」などの論点が出て来る。これらの事はベンダーや教材の会社も関わるので、こいうったリテラシーもなければ、しっかりした要望を出せないため、その結果、不本意な結果になった場合、現場が混乱する可能性がある。

 

社会全体として会社でも「ICTを教育に使う」という流れになっているので、「使わない」という選択肢は将来的にはあり得なくなって来ている。なので、リテラシー教育を前向きに検討して貰いたい。先生や市町村が、逆に子どもたちに聞くのも良い取り組みかもしれない。これはお互いにICTを有効に使う為にもなる。良い教育をしたい、良い人材を作りたい、というは皆にとって共通の目標であるから、そういった子どもとの関わりが必要と考える。

 

以前自分が関わった研究授業で、小学校2年生にタブレットを配ったが、彼らはすぐに使いこなし、授業の最後ではアプリ紹介まで行った。なんと児童の半分は家にスマホやタブレットがあり、それを日常的に家で使っていた。日本の子どもたちは、それだけ能力がある。日本の子どもたちがITリテラシーを身に付けて、新しい社会で活躍して貰いたい。

上松先生からお話しを伺っての感想

上松先生のお話しを伺う中で、海外のICT教育先進国では「Learner Centered」と呼ばれる学習者主体の学びを、以下のような仕方で実現させようとしている事が特に印象に残りました。

 

・クラス皆の意見をICTで情報共有する事で、生徒はお互いの意見を簡単に知る事が出来る。これにより、生徒同士でお互いの評価が出来るようになる(ピア・アセスメント)ので、生徒同士の切磋琢磨が進む。

 

・先生と生徒のやりとりのブログは、保護者や他の先生や他のクラスの人が見る事が出来るので、ここでのやりとりから先生自身への評価が為される。また、他の先生がこれを見る事で先生同士のコラボレーションが進む。

 

・先生同士のコラボレーションを促進する為に、国の教育政策としても先生の裁量を増やしたり、学校としても教務室をサロンのように会話しやすい雰囲気にしたりしている。

 

・先生同士のコラボレーションが進むと、クラスの学習状況にあわせ、科目間に関連性を出して教える事が出来る。例えば、「歴史である時代について教えると、国語はその時代の物語を教える」といった事が出来るようになる。これにより、より生徒の興味を引かせ相乗効果が高く、効率の良い学びを提供できる。

 

また、今後ますます進んで行く日本での教育のICT導入についても、それを有意義に進めて行く為に社会全体でICTリテラシーを上げて行く事の重要性を訴えられておられました。

 

そして、ご自身の活動としても、「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」の有識者アドバイザーとなられた上松先生。今後ますますのご活躍が期待されます。