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  • 未来教育リポート
  • 2016.02.01

【前半】海外のICT教育先進国では、ICTを教育にどう活用しているのか? ~ICTで実現される学習者主体の学びの仕組み~

現在、タブレットPCなどICTを教育に活用する、という動きが日本中で進みつつあります。

 

その中で、「ICTを教育にどう活用すると良いのだろうか?」との問題意識は、教育現場の方々を中心に多くの人達が感じているのでは無いかと思います。

 

そこで、海外におけるICT教育を研究されている上松恵理子武蔵野学院大学准教授(Asuka Academy理事)に、海外のICT教育先進国における取り組みについてお話しを伺いました。

小学生にWordやPower Pointを使わせる意義について

エストニアではパソコン教室で国語の授業を行っている。また、北欧全般で小学生でも作文はWordを使って書いている例が多く、作文を原稿用紙にだけ書かせるという事はICT先進国では少なくなってきている。

 

Wordを使うと文章の修正や、構成を変える事が容易に出来るので、低学年からでも長い文章を作り易くなる。「文章を沢山書かせる」という点でWordは有効。

 

また、ICT教育先進国では、何処の国でも低年齢から自分の意見を言う事を重視する。デンマークなども、小学校低学年からPower Pointを使わせている。この際、自分の意見を論理的に順序立てて言えるようことを目指している。このような表現力育成の為にPower Pointを使っている。

デジタル教材について

オーストラリアはデジタル教材が有料・無料を問わず豊富にあり、学校の教員はその中から自分で選択し授業で使用する。この際、有料の教材の購入費用は、先生が校長先生に掛けあって購入する場合もあり、校長先生がリーダーシップを持っている。

 

オーストラリアでは、国がウェブ上でデジタル教材を用意している。これは、ONE SCHOOLと呼ばれ、ここにデジタル教材が入っている。ONE PORTALには学習指導要録などが入っている。

 

日本の教科書は検定され無償で提供されている。しかし、国によってはそれらが無い場合もあり、個人に支給されない場合、学校に置いてあったり、先輩から受け継がれたりする仕組みがある。日本も今後、教材がデジタル化されると、学校によって教材にバラ付きが出るようになるかもしれない。予算が多い学校は、有料の良い教材を使える、など。そうなると、学校間で格差が生じる恐れがあるので、オーストラリアでは国が提供したデジタル教材を授業で使うことができる。また、幼稚園の年長からデジタル教材を使った授業がある。

オーストラリアのクィーンズランド州におけるデジタル教材の作り方

まず、政府が州の各地から優秀な教師50人を集め、教師1人に3人のプログラマーを付け、教師のアドバイスのもと、デジタル教材を作っていく。

 

そのようにしてできた教材をウェブにアップしていく。これらの教材は全て無料である。

 

幼稚園から、このウェブに入る為のアカウントをもらう。このアカウントは全ての児童生徒に与えられるので、これらにあわせ、メールの使い方等も学校で教える。

ID管理による子どもの学びの見守り

電子政府が発達しているエストニアでは、全国民に役所や銀行で使うことができるID番号が与えられていて、学校のパソコンを使う時にはそのID番号を入力して使用する形となっている。

 

この際、「ID管理がなされているので、ネットで悪さをするとそれが分かってしまう。バレる」という事を事前に学校で子どもたちに教えている。

 

オーストラリアクィーンズランド州では学校で使っているパソコンを家に持って帰って使うこともできる。そうすることで、帰宅後の子どもの学びの状況を先生が把握することも可能である。

 

また、先生から子どもへの連絡は、ブログのような電子掲示板を利用する。そこには授業の予定や学校に持って来るものといった連絡事項に加え、「次回の授業までにこの教材を見て来てください」といった、予習についての教材(文書や映像など)の連絡もなされたりする。

 

このブログは保護者も見る事が出来るので、学校の様子を知る事も出来る。更に、保護者に学校からメールが配信され、保護者はアプリで見ることもできる。

ICT導入で、授業だけでなく、評価の仕方も変わる

時代が変わると、求められるスキルも変わる。例えば子どもがクレジットカードを使う際の注意点や、政治にまつわる政党・選挙の事などなど、時代に沿った、生きるために役立つ内容を教える。日本ではあまりないが、子どもたちが政治に関心を持たせ、シチズンシップなどを理解させたりする。

 

北欧は特に勉強の仕方を教える。先生は授業中、生徒に教えるというよりも「なぜ?」と問いかける。例えば戦争が起こっている国の難民対策についてや、地球温暖化をどう考えるかなど、答えのない問いが少なくない。

 

スウェーデンでは難民をどう受け入れるかどうか、という議論も授業の一環で行う。この際、あるクラスでの議論を他のクラスともネット上で共有させるようにする。すると、色々なクラスの意見を知る事が出来る。

 

また、授業中に子どもが自身のタブレットで書いた解答を先生に送る事で、クラスの全ての子どもの解答を皆で見られるようになる。これによりピア・アセスメントが出来る。ピア・アセスメントだと、他の生徒の解答を見て「この人の答えは凄い」とか、「この人の作文は凄い」とか、「この人の絵は凄い」といった事を知り、評価する事が出来る。このような「相互評価」も、子どもの評価に取り入れよう、という流れがある。

 

このようにICTを導入すると、授業が変わるだけでなく、評価の仕方も変わる。
今までは作文を書いても、それを見るのは先生だけだった。今はネットに載せれば世界中の人が見ることができる。そうすると子どものモチベーションが上がる。他の国から「あなたの作文を見ましたよ、素晴らしいですね」とメッセージが来る例もある。このように、自分の学びが友達や色々な人に見られるので、子どもはモチベーションが上がる。これは、facebookで「いいね」を押してもらう感覚に近いのかも知れない。

 

ただ、何でもグループでシェアすればよいということではない。例えば、答えが1つしかない問題に対して、グループワークで解答を模索する授業をすると、せっかく討議したことが無駄になる例もあるので、この方法は、「解答が無い課題」「それぞれの意見がそれぞれに正しい課題」に対して有効となる。

 

今、このような「解答が無い課題を考えさせ、お互いの意見を尊重する」という授業方法へシフトしていくという教育方法の流れがある。ICTはこのような、多様性を知る為のサポートツールになりうる。

ICT教育時代の試験について

デンマークの例を紹介する。デンマークでは正誤を問うテストもあるが、暗記式では無く、テスト中にスマホを見ても、試験室を離れてトイレに行っても良いという試験もある。

 

デンマークの子どもたちにテスト勉強をどうやっているのかインタビューしたところ、「テストの時にどのサイトを見ると良いかを事前に調べておく」との事だった。

 

デンマークのテストはアダプティブ式になっている。生徒はコンピュータでテストを受け、質問に正解すると次の質問はより難しい問題となり、正解できなかった生徒には、より簡単な問題が出題される。

 

※後半に続きます。

https://miraikk.jp/cat-01/1942