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  • 未来教育ワークショップ
  • 2016.07.21

加藤雅也さんと教育について語る会

平成28年3月21日(月)、横浜のシネマノヴィチェントで加藤雅也さん主演、「さくら、さくら -サムライ化学者 高峰譲吉の生涯-」http://kagakushi.org/archives/2044を鑑賞後、横浜国立大学教育学部を卒業され、国際派俳優をされている加藤雅也さんに「グローバル人材育成と日本の教育」というテーマでお話を頂き、ワークショップを開催しました。大学生、会社員、主婦など様々な年代、幅広い層の方々、30名ほどにお集まりいただき、中身の濃いワークショップを開催することができました。

 

ワークショップを始める前に、ゲストの皆さまに一言ご挨拶を頂きました。

 

神奈川県立光陵高等学校、同窓会会長、元西武球団社長の太田秀和氏:
「日本人にとっての英雄は、たくさんいるはずです。素晴らしい先達を我々は認識していません。海外では国内で認知された、憧れの英雄がたくさんいます。日本でも憧れの人々を具現化して欲しいと思います。高峰譲吉のように隠れた先人達がもっと世に知られると良いと思います。」

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東京インターナショナルスクール理事長、教育再生実行会議有識者メンバー、坪谷ニュウエル郁子氏:
「東京と横浜に桜の開花宣言の日にこの映画を皆さんと観ることができたことは光栄なことです。日本はOECDの加盟国の中で教育に対する税の財源が最下位の国であり、親のポケットマネーに頼っている国でもあります。日本は今、6人に1人の子供が貧困であり、経済格差が直接学力格差に繋がりつつあります。今年度、財務省の教育予算カットの方針が出ています。今日観た映画の先人たちの思いや志に報いるために、より良い教育、子供たちの未来こそ、私たちは投資すべきではないかと感じています。」

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NPO高峰譲吉博士研究会事務局長、長谷部正明氏:

「昨年、高峰氏の科学伝記漫画を制作しました。それを通して高峰氏の業績を一人でも多くの人に知ってもらい、多くの若者に科学者を目指してほしいと考えています。アドレナリンの抽出・結晶化に成功など、ノーベル賞級の研究をしたにも関わらず、高峰譲吉の知名度があまりにも低いです。理化学研究所の必要性や黒部の開発を提唱したのも高峰氏でした。これを機会に、皆さんにも高峰譲吉の顕彰活動に御協力を頂けると嬉しいです。」

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加藤雅也氏のトーク

<映画について>

この映画「さくら、さくら」の出演依頼があった時に、高峰譲吉をもっと知ってほしいと思い引き受けました。それまではインテリで悪い役柄やアウトローな役が多かったのですが、今回はグローバルな学者の役で、特に、高峰譲吉の人柄にひかれたことも大きかったと思います。

日本では高峰譲吉より野口英世の方が有名ですが、野口英世は高峰譲吉を追ってニューヨークに渡り、それほど研究熱心ではなかったのですが、たまたま黄熱病の調査の仕事の話が来て現地に渡り、現地で命を落としたことにより偉人となったと聞いたことがあります。このように、日本人はどちらかというと、苦労して成功した人を称え、高峰のように裕福な家庭で育った人が業績をあげても、あまり取り上げられない傾向があるように思います。日本はアメリカよりも安全だし、お互いの信頼関係で成り立っている国です。例えば、何かあって騙されると、騙した方が悪いと考えられることが日本ですが、アメリカでは騙された方が悪いとされたりします。日本人はそういう考え方があることも知るべきだし、そのことを伝えていくことも大切だと思いました。

このような例を踏まえつつ、本日は教育に携わる方々が多く参加されていますので、私なりにグローバルな人財育成についてと、日本の教育について、少しお話ししたいと思います。

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【グローバル人材育成について】

まず、グローバル人材育成に必要不可欠な要素は「英語力・世界的スタンダードな価値観と危機感(危機管理を含む)・ディベート力、ディスカッション力」だと思います。

 私はモデル時代にパリコレに行きましたが、英語をしゃべること、聞くことができず困ったことを覚えています。英語ができれば電話で済んだことを、わざわざ訪ねていかないといけない状況がありました。その時に英語が話せたら、とすごく実感しました。

その後仕事を続ける中、私は英語の必要性を強く感じていました。結果、その数年後、アメリカに留学しました。その時に自分がやった英語学習法の一つが、自分から相手に質問をすることでした。相手の答えが予測できるから会話が続くようになります。他にも知らない単語が出てきたらすぐにチェックをしました。この様に繰り返すことがディスカッションへのステップになりました。まずは何でもない事に疑問を持ち、考える力が大事だと思います。

そうやって英語に触れることで学んだことは、「英語」は話せることが大事なのではなく、英語で何を語るかが大事だということです。日本では英語ができる人に対して「英語できてすごいね」と言ったりしますが、英語ができることは特にすごいことではないと思います。英語ができるのがすごいという発想を日本から消すべきだと思います。今の子供に伝えるべきことは、英語はただのコミュニケーションツールということです。まず、日本語で知識を蓄えて、英語で発信できるように、そのために英語力を身につけていくべきだと思います。

 また、アメリカに行って感じたのが自分自身の危機感のなさと物事に対する価値観のずれでした。ロサンゼルスのウエストウッドに行った時のこと。安全そうな町でしたが、たまたま犯人逮捕の瞬間に遭遇したことがありました。つい何があったのか見たい気持ちになりその場で様子をうかがっていましたが、現地の友人に危ないから逃げろと言われました。友人によると、ギャングの仲間が襲撃して来て事件に巻き込まれる可能性があるとのことでした。その時に、安全な国日本に住んでいる自分の危機感のなさを痛感しました。

他にも、何も言わない、意思表示をしないとやる気がないと判断されるということも感じました。日本で言う「秘すれば花」という発想は、世界では理解されることはなく、通用しません。思ったことはきちんと発言し、コミュニケーションを図ることが大切だと実感しました。

さらに、日本では、控えめであることが美徳とされますが世界では必ずしもそうとはかぎりません。日本人も、もっとディベートできる能力が必要だと思います。昔から日本人は特別な技術を継承する時に、理論よりも「一子相伝」という考え方を使うことが多かったと思います。例として日本の武道では、見て覚えろという姿勢で、教えることをしないで育った人間にのみ、秘伝を教えたりしました。しかし、そういう発想を外国人はあまり理解できないと思います。今の時代は「一子相伝」よりは、もっと理論をしっかり教える方が、理解も早いのではないでしょうか。

演技メソッドを習う時に、英語のものを日本語に訳していくと違うことがよくありました。昔、陸上をやっていた時のことですが、1964年、ドイツからゲラルドマックのトレーニング方法を伝えられ、中学、高校、大学と、そのやり方を信じて練習をしていました。あるとき、ゲラルドマック氏が日本に来て、彼が伝えた方法と違うやり方をやってことがわかりました。ドイツ語から日本語に訳す時に誤訳により違うトレーニング方法を伝えてしまったようです。通訳の難しさは、どの言葉を選ぶかによってニュアンスが違ってくるという危険性があります。英語で書かれているものを英語で伝えるのが大事だと思います。安倍総理が「テロに屈しない」と言った時に、どの言葉で訳すかでニュアンスが変わってしまう恐ろしさがあります。英語は英語の、ロシア語にはロシア語のニュアンスがあります。このように、外国語を通して、「言葉の魔力」というものを学びました。

 

【日本の教育について】

某予備校の社会の授業で、信長の比叡山焼き討ちを教えるにあたり、なぜ比叡山を攻めたのかというと、不良グループに遭遇し、そのリーダー格を攻めると他のメンバーは逃げていく場面をよく見るが、それと同じように、宗教のてっぺんの比叡山を攻めれば、他のメンバーは逃げていくからだと教えていました。なぜそうなのかの理論を教えているところが素晴らしいと思いました。自分が高校の時の社会の授業は、教科書に書いていることをただ覚えるだけで、なぜそうなのかという理論を教えるような授業ではなかったので、あまり聞いていませんでした。この先生の授業は、どこを狙えば勝てるのかを教えていくことで、単なる社会の授業ではなく、理論を教えている点で、生き方を教える授業になっています。これこそ本当の授業だと思います。ただ教科書を教えるだけの授業なら学校教育、そして教師はいらないのではないでしょうか?将来、教師の仕事がなくなるという話もあります。素晴らしい先生がモニターの前で授業をやれば皆見ることができますし、同時に発信されれば平等に授業が受けることもできます。今後、タブレットを使って平等に教育を与えることもできます。今現在、日本の経済格差が話題になっており、親の年収が高いほど子供が良い教育を受けられるといわれていますが、それができれば、そういう問題も解消できるのではないかと思います。

先日、母校(奈良高校)で話す機会があり、「教師は、一人一人の子供を見ながら、個別に指導し、相手を見て指導方法の工夫をしていく必要があるのではないでしょうか。そうしないと教師の必要性がなくなるのではないでしょうか?」という話をさせていただきました。ある一定の教育を受けた人は教師になれますが、多くの教師は自分の物差しで子供を判断する傾向があるように思います。ある教師が勉強できない子供の家庭訪問をした時に、とても勉強のできる環境ではないところで生活をしていることを知り驚いたそうです。教師は子供の可能性を広げる立場ですが、色々な環境で生活している子供を指導する教師自身の物差しが小さかったら、きちんとした指導はできないと思います。まず、人を指導する教師自身が人間として成長しているべきだと思います。

自分が芸能界に入ると決めた時に、体験した話をしたいと思います。自分が就職を決める時に教師になるかモデルを続けるか迷いに迷い、最終的にモデルをやると決めて、高校の先生に言いに行った時のことです。その先生は、後輩の前で「ほらな、こういう甘い汁を吸ったやつは戻れないだろ。」と言いました。その時、自分は「俺は俺で頑張りますから。」と悔しい思いで答えました。教師として子供の可能性をどう計るのか。子供と接していく教師という仕事で、そういう先生は作ってはいけないと思いました。

同じ時に、私のゼミの蝶間林先生に芸能界に入ることを伝えた時、先生は、このように言われました。「俺は芸能界のことは知らないが、この4年間を見てきて、お前は野たれ死にするようなやつではないだろう。思いがあるならやってみろ。ただし、成功したときには、そのお金で、勉強したり、経験を積め。ダメになってもその知識と経験でカンバックしろ。」そしてその後、映画デビューすることを報告した時先生は、「就職は大丈夫だな。もし上手くいかなかった時のために、スポーツメーカーの内定を取っていたが、もう断るぞ。お前に言わなかったのは、言ったら甘えるからな。」と。この2つの事例からわかることは、教師を目指す人には物事を教えるだけではなくて、自分の物差しに捉われることなく、一人一人の生徒を見て指導する教師になって欲しいということです。

自分は、芸能界に入って、様々な思想や考え方の人がいるグチャグチャの環境だからこそ、色々と気づくことができました。俳優になりたての頃、「つまり」「ゆえに」という言葉を自然に使っていたら、上から目線な話し方だと言われたことがあります。自分ではそういうつもりは全くないので悩みました。また大学の話をしただけでも、偉そうにと反発されたことがありました。こういう経験から、色々な考え方、価値観があるということを学びました。色々な生徒と関わる教師は、生徒の中には自分が持っていない考え方・価値観を持っている生徒もいると踏まえて生徒と接するべきだと思います。

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参加者からの質問&感想

参加者(公立中学校教師)の質問:

自分は会社員を経験して5年前に公立中学校の教師になりました。先生はこういうものだと思っている生徒に対して、私は、自分の経験を生かして、私らしさを大切にした先生をやっているつもりでしたが、生徒たちからは「先生っぽくない」と批判されることがありました。そういう状況がある中で、どういう教師を演ずるべきか。やはり、新卒から先生だけを目指した、先生の世界しか知らない先生の方が、「先生っぽく」なれるのではないでしょうか?

・加藤:

そういう考え方しかできない子供を育てている日本の教育に問題があると思いますが、すぐには変えられないと思います。10年、20年のスパンで考えるべきでは?幼児教育をどう変えていくのかも課題だと思います。

参加者(50代会社員)の感想:

子供が大学に入ることになって、日本はいつまでも日本の企業に勤められるかわからないし、経営者が外国人かもしれないのに、子供に危機感がありません。加藤さんのされていた質問をする勉強法が良いと思ったので子供に教えたいと思います。

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・加藤:

自分は苦肉の策で、そうしていかないと友達が作れないし、生きていかないといけないという発想から工夫してみました。ゴシップ集を読んだ方が使える英語がたくさん出ていました(笑)

・参加者(40代会社員)の感想:

日本の教育で足りないのは、ビジネスを考える機会が少なすぎると思います。子供が大人になり、新しいことを開拓したり、問題解決したり、ビジネスすることに対して、(加藤さんがおっしゃった)清貧、貧困を美化する発想があると思います。色々なチャンレジをした中でどうやってお金を得られるかについて考えられてきたと思いますが、その点で何かご意見はありますか?

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・加藤:

大人がどうやって教えるかの意識の転換が必要なのではないでしょうか? この授業で何を教えるのか、自分の発信の仕方を変えることによって変わるのではないだろうか? 例えば、アメリカではモノポリーというゲームで、投資を学ぶことができます。ゲームを通して何かを学ぶソフトの開発、ゲームの開発なども必要かもしれません。空手キッドという映画がありましたが、何かを通して教えて、身についているものを与えるべきではないでしょうか?いずれにしても長いスパンで、日本の将来を見据えてやることが必要だと思います。

・東京インターナショナルスクール理事長 坪谷氏の感想:

私は、教育とは何か、educateの意味を考えるのですが、educateとは、一人一人が輝くもの、得意なもの、好きなもの役立つものを持っていて、それをいかに育てて開かせるのかが教育だと思っています。私たちは、様々な社会に属している。まずは家庭、地域、国、アジア、世界、宇宙に属していて、生まれた意味は、それぞれの社会をより良くするため、より平和にするために自分は何ができるのか。自分は何が得意で、何が好きでパッションがあるのか?そしてそれを誠実にこなしていける人を育てるのが教育だと思っています。人間は死ぬまで成長し続けるべきだと思います。それを教えることが教育ではないでしょうか?教育にはすごい力があります。私は、教育で子供たちが変わってくるのを見てきました。教育には未来を変える力があります。そして、もっと大切なのは、学校よりも家庭における保護者の教育です。加藤さんのように教育学部を出られて影響力がある人は、今後も色々な場で問いかけをしていかれると思います。それぞれの立場はあるが、教育とは何だろうか?何ができるのか?を考えて行動をしてくことができればと思っています。

気づきのシート&まとめ

◎今日のワークショップを通じて、あなたが得た気づきや発見には、どんなものがありましたか?

・たくさんありすぎて、書ききれませんが、映画もワークショップも全てが学びでした。

・言葉の大切さ(コミュニケーション力)。教育は長いスパンで見ていかなければならないということ。

・グローバルな子供たちを育てる。日本の小さな世界だけでなく、世界に飛び立つ子供たちを育てていくこと。広い視野で見れるような経験、体験をさせていきたい。加藤さんのお話、聞けて良かった。

・10年、20年先を考えながら、今やるべきことを考える。

・質問しながら学ぶ、英語で何を話すか考える。

・高峰博士の名前は聞いたことがあったが、結婚について全く知らなかった。その一端を知ることができて良かった。加藤さんは素敵な俳優であると同時に、こんなにも芯の通った幅広い考え方をされる方であると知り感銘を受けた。もっと、世間に話をしに行って頂きたい。

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◎今日のワークショップを経て、改めてあなたの教育についての願いを語るとすれば、どんなことでしょうか・

・社会生活を通し、これからの社会において大切なことは問題解決能力なのでないかと思う。様々なレベルで“社会をより良くする”とは何かとさらに坪谷先生の言葉から更に強い考えになった。

・自分で考え行動する力、人と協働する力を最も大切に育てていきたい。

・危機感+価値観を養う。コミュニケーション力(言語に関わらず)

・現在の日本のように、小さい時からきちんとトレーニングをされた子供だけが、さらなる高等教育を受けられる機会を得られるのではなく、様々なルート、機会から高等教育を受けられる日本であって欲しいと思う。

 

<主催者より>

自分自身が、公立中学校の英語教師という立場から、日本の公教育について様々なことを感じながら日々生活をしていますが、今回の会には、高校の先輩でもあり、教育再生実行会議有識者メンバーであられる坪谷ニュウエル氏も参加してくださり、日本の公教育にかける熱い思いを語ってくださいましたし、参加者の方々も、熱い思いで日本の教育のことを考えている方ばかりで、中身の濃い会になりました。何より、お忙しいスケジュールを調整し、ボランティアのようなこの会に、快く、とても丁寧に準備をして臨んでくださった加藤雅也さんの熱い思いには感謝すると共に、大変感動しました。そもそも、私がこのような会を開こうと思った理由は、色々な年代、立場の人たちが、ざっくばらんに日本の「教育」について対話をする場を持ち、そして、それをより良い教育のために発信していければと思ったからです。特に、「高峰譲吉」という日本にとって重要な人物でありながら、あまり世に知られていない先人の想いに触れながら、このような会を開くことができたらとても有意義なのではないかと考えたからです。今後も、これを機会に、色々な分野の方々の力を借りながら、より良い「教育」のための発信ができればと思っています。

加藤雅也イベント写真

 

  • ライター
大学卒業後、貿易関係の仕事に従事した後、公立中学校の英語教師として勤務。
去年の7月から未来教育会議コーディネーター(個人サポーター)として活動している。
未来教育会議立ち上げメンバーに現職教員として参加。

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