PREV
NEXT
  • 実行委員会の活動
  • 2018.02.28

「人一生の育ち」を考える ’教育×経済’ 対話 第三回「21世紀の多様性と国民文化」

ホフステード・インサイツ・ジャパン株式会社代表取締役 宮森千嘉子氏

第3回のテーマは「21世紀の多様性と国民文化」。グローバル化が進み、多様な国の人々と関わり合う多文化共生時代の中で、コミュニケーション能力が必要なのは言うまでもない。重要なのは、いわゆる言語スキルの獲得だけでなく、根底に流れる国民文化の理解が重要性を増しているという点だ。日本は島国との特徴から、そもそも異文化を知る機会が少なく、知らないがゆえに壁に当たることも多いと思う。

今回登壇いただいたホフステード・インサイツ・ジャパン株式会社代表取締役 宮森千嘉子氏は外資系企業での経験を重ねる中で、ある時、各国の国民文化を様々な点から定量的に示す『ホフステードモデル』に出会う。目に見えない文化を数値化したこのモデルに深い感銘を受け、2014年に法人を設立し、本モデルを日本に広めるべく活動を推進されている。今回は、文化とは何かという視点から、ホフステードモデルの成り立ち、世界における日本の国民文化の特徴などについて掘り下げていく。

そもそも文化とは何か、なぜ理解する必要があるのか

まずビジネスの世界では、日本は世界からどのように見られているだろうか。宮森氏は、先日アメリカで実施した、多国籍の方が参加するワークショップで衝撃を受けたという。一緒に仕事をするとき「どの国と一番心理的な距離感がありますか」という質問を、参加者に投げかけたところ、日本という回答が最も多かった。宮森氏の体感値では、20年前は、アメリカやドイツの人々とこれほど心理的距離が離れていなかったからだ。

 

「今年の11月にスイスのビジネススクールIMDが発表した2017年版世界人材ランキングによると、調査対象のアジア11カ国中、日本は高度外国人材にとって最も魅力がないという結果になっているそうです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-11-21/OZQUJF6TTDS001

世界各地でファシリテーションをする機会も多いのですが、あるアジアの国の日本法人で働いている現地社員に話を伺った時、本社からくる日本人は、私達の国の良い点を見ようとせず、悪い点ばかりに注目するので、相互理解が進まないという哀しくなる話もききました。もちろん、日本人の皆さんは大変な努力をされています。 これは、双方が、国と国の文化の価値観の違い を理解しないままビジネスを進めている 結果、とも受け取れると思います。」

 

では、私たちはこの”文化”というものを、一体どう捉えたらよいのだろうか。ホフステードモデルを提唱したオランダの経営学者、ヘールト・ホフステード氏は、文化とは「あるグループから他のグループを区別する、集団的な心理的プログラミング」と語っている。そのプログラミングの内容は、以下の3つに分類ができる。

 

・「人間」という動物としてのプログラミング(遺伝)

・所属集団に共通したルールのプログラミング(学習)

・個人の性格、経験によるプログラミング(遺伝や学習)

 

「2番目のプログラミングが文化です。人間は社会的な動物である以上、たくさんの集団に属して生きていくので、その集団の中でうまく生きていくためのルールや方法を身につけていかなければいけない。これを文化と呼びます。

 

私たちはたくさんの集団に属して生きていますが、母国の文化のプログラミングは生まれた時から始まります。生まれた時から、親や周りの大人がどんな時に、どんな振る舞いをしているのかを見ながら無意識に身につけていくんですね。国民文化のプログラミングは、大体10歳から12歳のときに終わると言われています。そして、成人に近づくと、専攻や業種、企業など、自分の選択した集団の中に入っていきます。そこでの文化は意識して身につけていく慣行であり、簡単とはいいませんが、意識して身につける慣行は、 変革することができます。一方、生まれた瞬間から無意識のうちにプログラミングされてしまった国民文化は、ある状態の方が他の状態より好ましいと思う、判断をするときに使うものは、変えることがなかなか難しいです。

 

 

このように考えると、国民文化を変えるには長い時間がかかりますので、まずそれを理解する必要があります。一方、組織文化は後天的に変えられるものです。国民文化を理解した上で、可変の組織文化に応用していくことが大事です。その指標となるのが、ホフステードモデルです。」

ホフステードモデルとは

ホフステードモデルは、国ごとの文化を数値化し、相対的な位置付けを表現したものだ。体系化したホフステード氏は、現在89歳。IBMの人事マネージャー時代、世界中にいる従業員の満足度調査を担当したところ、国ごとの傾向が最も強く出ていることがわかり、やがてこのモデルを確立するに至ったという。この功績が讃えられ、世界で最も影響のある経営学者としてウォールストリートジャーナルに掲載された経験も持つ。このモデルは確立されてから50年以上経った今も研究され、進化し続けている。

 

では、実際にホフステードモデルとはどういうものかを見ていこう。

まず人類共通の課題を、6つの次元として表現している。

 

①「権力格差 小さい 対 大きい」:権威との関係。自分よりパワーがある人に対し、どのように感じるのか

②「集団主義 対 個人主義」:社会とどう関わるかにおいて、集団に依存して生きるのか、自立して生きるのか

③「女性性(やさしさ) 対 男性性(タフ)」:動機付けの要因が、達成する、成功する、地位を得ることなのか(男性性)、家族、友人、大事な人と一緒にいる時間を大切にすることなのか(女性性)

④「不確実性回避 低い 対 高い」:不確実な事、曖昧な事、知らないことに対してどのように向き合っていくのか

⑤「短期志向 対 長期志向」:時間・未来に対してどう考えるのか

⑥「人生の楽しみ方 抑制的 対 充足的」:人生を楽しみたい、あるいは楽をしたいという気持ちについて、抑制して物事にあたるのか、充足させる方向に向かうのか

 

これら6つの次元について、国ごとに0から100までの間に数値化して表現している。

20171206_博報堂_未来教育会議【宮森】

「この数値を通して、国民文化を客観的、相対的に捉えることができます。つまり、世の中や、組織の中で起きている事象をシステムとして理解できるので、問題をニュートラルに捉えることができます。個々人が持つ課題というのではなく、文化的な分析をすることで解決策を見出せるのです。

ポイントは、単一の次元で解釈するのではなく、次元を組み合わせて解釈することです。こうすることで過度な単純化を避けています。国、組織といった集団というのは、世の中のシステムとして一番複雑なものですので、タイポロジーで分けてしまうのは大変危険だという意味で、こうした仕組みになっています。」

4つの次元について日本の特徴をみる

それでは、各次元について、日本は相対的にどのような位置付けにいるのだろうか。今回は、組織運営に直結する①~④の次元について見ていく。

 

①権力格差

 

「日本は、世界の中で真ん中くらいの位置です。意外に思われる方もいるかもしれません。世界の分布を見てみると、権力格差が高い国の方が多いということがわかります。

 

タイやアジア、中東はヒエラルキーがとても重要なので、中央集権的で、指示命令型になります。何をいつまでにどのようにやって、出来るかどうかを見守ってくれる、厳しくもやさしい家父長のような先生や上司が 理想的 と言われます。一方、北欧諸国のように、人生は不平等なものだけれどもできるだけ平等にすべきという風に強く考える国は、ヒエラルキーはあっても、それは便宜上だけです。組織として必要だから一応社長という役職の人がいるという考え方です。こうした国では分権や権限移譲は自然に行われますし、理想の先生や上司というのはサポートができる方、コーチのような方。こうした環境では、上司が2人以上いるのも当然のことです。私は米国企業で20年ほど働きましたが、大体いつも2人から3人の上司がいました。

 

権力格差の高いところでは指示を出すことが非常に重要ですし、逆に権力格差の低いところではマイクロマネジメントが敬遠される傾向にあります。」

 

②集団主義 vs個人主義

 

「自分が所属している集団のために働くのか、それとも個人を優先するのかという指標です。例えば2017年3月にサウジアラビアのサルマン国王が来日された時、1500人もの随行者がいたのは集団主義の表れと言えます。 拡大家族という概念が強いのですね。集団主義の強い国では、自分の家族を良いポジションにつける傾向にあります。自分の家族の面倒が見られない人はインテグリティがないと思われてしまうんです。一方、ほとんどの西洋諸国は個人主義です。家族だからという理由でスキルもないのに良いポジションにつけるのは縁故主義とみなされ批判されます。

さて、日本はどちらだと思いますか。私たち日本人も、自分たちは集団主義といいます。確かに欧米から見るとそう見えるようです。でも、アジアの中では最も個人主義が進んでいる国なのです。つまり、アメリカと比べればもちろん集団主義ですが、だからといって日本は集団主義だよね、という思い込みは必ずしも的確ではない。 中東、中南米や東南アジアの方からすると、日本人は何を考えているかまったく分からない、ということも結構あります。文化は相対的なものとして、各国との比較で捉え、自分たちの持っている思い込みを外していくことが大事だと思います。」

 

 

③女性性vs男性性

 

「この次元はネーミングから誤解をされやすいのですが、ジェンダー論とはまったく関係がありません。動機づけ要因がどこにあるのか、に関わるものです。例えば、社内で圧倒的な売上をあげた社員がいたとしたら、皆さんはどのような対応をするでしょうか。 ボーナスをあげるとか、褒めるとかしますよね。でも、そのように業績を表立って表彰することを受け入れない文化もあります。

女性性の強い国は、生活の質や人への思いやりを大事にします。仕事より生活が大事。また社会の弱者へのセーフティネットがきちんと整えられており、そのために高い税金を払うことをいといません。

一方で男性性の強い社会は、競争原理の中で勝つこと、与えられたゴールを達成することを重要視します。

女性性の非常に高い国、例えば北欧諸国やオランダでは、目標設定をしたとしても、それは皆の方向性を決めるだけにあるのであって、達成することを重視しませんし、目標自体が良く変わります。こうした国では、全員の意見をコーディネートしてコンセンサスを取るマネジャーが優秀とされます。ここでいうコンセンサスとは、日本のように全員の意見を一致させるという意味ではなく、 絶対的な合意は出来ないけれど、どこか合意できるところを探す、という意味です。

一方、男性性の高い国は、とにかく目標は必達。成功することで高い地位や報奨を受けることが動機づけの要因となります。そのため、仕事が人生の中でものすごく重要な位置づけを持っています。

さて、日本はどちらでしょうか。日本は男性性が高いんですね。世界で最も高い国の一つです。例えば私が研修をしていて「みなさんの会社で目標は達成しなくても大丈夫ですか」と伺うと、必ず「何をいっているんですか。必達です」とお答えが返ってくるのも、こうした点の表れです。」

 

 

④不確実性の回避

 

「曖昧さ、不確実なことを回避するために、感情的にルールや仕組みを必要とするのか、それともルールはできるだけない方がいいと考えるのかを表す次元です。

例えば、中国は不確実性回避が低い傾向があるので、できればルールはない方がいい。北欧諸国もそうです。不確実なことや曖昧なことを楽しんでしまうところがあり、知らない人と対話することも重視します。彼らは成功をするためにリスクを背負うので失敗を全然怖がりません。先生が生徒から質問された時に、「私、知らないわ」ということを自然と言える傾向にあります。

一方、不確実性回避が高いのは日本やドイツです。曖昧なこと、不確実なことを嫌うので、専門性を非常に信頼し、何かあると専門家に聞いて確認したり、ルールがないと不安で嫌だ、というところがあります。成功するためというより、失敗を避けるために、リスクを減らす傾向にあります。

 

多国籍な中でのプロジェクトを進めると、その進め方が違って大変なことも多いですよね。日本やドイツといった不確実性を回避する傾向の人達はまず最初にどのように進めるかを綿密に計画しますが、アメリカやイギリスなどアングロサクソン系の国々ではまずはとにかくやってみて、何かあったら立ち止まって考え、修正する 。日本でのやり方ではとかくスピードが遅い遅いと言われていますが、実は最終的にかかる時間は大体同じだったりします。」

多国籍間でホフステードモデルはどう活かせるか

web用DSC00953

こうしたホフステードモデルを実際に組織に活かすには、どうしたらよいのだろうか。例えば、国境を越えて組織を作っていくときには、無意識化している国民文化の違いを意識化して、その上で一緒に強みを作りながらあるべき組織文化を作る、というプロセスが必要だ。宮森氏は、先駆的な例として、すでに多国籍な環境になっている自治体の取り組みを挙げた。

 

「ベルギーのMeheren市のケースです。ヨーロッパの中では多様性を活かすことですごく有名な市で、人口8万6千人、市民の出身国は132カ国に及びます。Bart Somers市長は2001年に就任して、2016年にワールドメイヤー賞を取っています。

 

Meheren市では、ベルギーの国民文化と、それぞれの国民文化をきちんと理解した上で、Meheren市としての文化を新たに作ることを明確に打ち出しています。つまり、アイデンティティは2つ以上あっていい、と明言しているんです。その上で、Meherenという市をどのようにしていくのか、グローバルな環境がすでにこの市内にあるという意味で、本当の多様性やサステナビリティをダイナミックに実現していこう、ということを目標に明確に掲げています。

 

ベルギーは、ホフステードモデルでいうと、非常に不確実性の回避度が高く、かつ、権力格差が強い国です。そのため、優秀で信頼できる強い市長のいうことには耳を傾けます。同時に市民が抱える不安、心配を取り、心理的に安全な環境をつくってあげなくてはいけない。そのために教育、特に警察や教師への教育や医療団体への教育をきちんと行なっています。

 

多様性を包摂する組織が成功するには何が必要かと考えると、ゴールやビジョンがしっかりしていること、そして、メンバー一人一人がありのままの姿でいられることだと思います。出身国が北アフリカ諸国でも、中東でも、ベルギーでも構わない。一人一人のバックグラウンドとニーズを理解して、Meheren市民というアイデンティティを誇りとしてもらえるような多文化社会を構築していくのか。こうした取り組みを、市として、もう10年以上に渡って継続的に行っています。」

 

世界では、様々な国籍の人が集って何かを作り上げることが当たり前になっているが、そこには無理解による対立が存在することもまた事実。ホフステードモデルは、多文化の世界を互いに理解し合うための一つの実践的なツールといえる。

 

「文化は、1時間の話に収まるほど簡単なものではありません。今日はあくまで、文化へのジャーニーの第1日としていただいて、みなさんが文化に興味を持って下さることが大事だと思います。その上でよりよい社会を作っていくためにこのモデルをツールとして使って頂ければ、私にとってこんなにありがたいことはありません。」

Q&A

– ホフステードモデルのスコア(0から100の数値)は、どのように算出しているのでしょうか。

 

宮森:元々のデータは、1960年から73年のうちにIBMで収集したものです。ホフステード先生は IBMの人事に在籍したときに、4年間で72カ国116万人を対象に、筆記によるサーベイを実施しました。そこで、国民文化の違いを分類してスコア化しました。その後、対象を変えて同じ質問表を使った調査を何度も行っています。国の文化的価値観を数値化するという取り組みは、世界でも初めてのパラダイム・シフトで、これまであらゆる方面からカウンターアタックの調査も行われています。ホフテスード先生はそうした批判一つ一つを丁寧に受け止めて、 相関分析を非常に多く実施しています。そういう形で、この数値がまだ正しいかどうかの妥当性の検証がなされていると思ってください。

 

 

– 今日のお話で印象的だったのは、日本が「不確実性の回避」が非常に高い数値だということでした。不確実性がますます高まる世界の中で、この点をどのように考えますか。

 

宮森:不確実性の回避の高さが悪いかというと、実はそんなことはないと思います。特に日本人の場合は男性性が高いので、ルールを作ればそれを守りますし、一度決めたことは極めるという達成意欲が強い。この特性をどうよい方向に持っていくかが、まずは重要ではないでしょうか。

 

一方で、今のように何が起こるか全く分からない世の中で、 正解のない中で自ら判断して動くのが苦手という点はあります。ここ半年、特に海外でのファシリテーションが多かったので、外から見える日本について聞く機会が多かったのですが、私が思っているよりもさらに若い30代後半から40代前半の方達が非常に内向きで、今50歳とか60歳以上の方の方が赴任国について知ろうという姿勢があった、 という話も聞きました。

 

日本の場合は「権力格差」と「集団主義・個人主義」が中庸というのも大きな特徴ですね。それを象徴する仕組みとして、日本の稟議システムがあります。ミドルボトムアップといって、日本では、方々から情報を集めてきて、稟議の形で社内の根回しをしつつ、男性性が強いのでもっと良いものに仕上げてアウトプットを生みだすということが出来ていました。この中庸(権力格差/集団主義・個人主義)と極端(不確実性への回避/男性性・女性性)をこれからの時代でどう使っていくのか。この中庸と極端を一緒に考える必要があるのかなと思います。これまで日本が成功していた時代があったのは、その特性がうまくはまったからだと思うのです。

 

あくまで重要なのは、このモデルのポイントは、国の文化に良いも悪いもない、ということ。違いを理解した上で各々の良さを統合して、もっと良い社会を作っていこうよということです。

 

 

– 文化を数値で客観的に測れるのは、とても使い勝手がよいと思いますが…一方で、それだけで単純に理解できるとは思えないのですが。

 

宮森:もちろん、この指標で全てがわかるわけではありません。ただ異文化間で何か起きた時に、それがどういう背景から起こっているのかを考えるには、とてもよいツールであるんですね。ホフステード・インサイツには40カ国100名ほどのファシリテータがいるのですが、Brexitが起こった時、私の仲間内では、このモデルを踏まえて、国民投票は僅差でBrexit側が勝利するだろうと予測していました。今スペインで起きているカタロニアの独立と、スコットランドの問題はなぜ違うのかということも数値を使うだけで説明ができます。ですから、新聞記事に書かれていないことも見えてくる。

 

この指標を知っていると、いろいろな事象の裏に、どの次元がどのように影響しているのか、と考えられる点が面白いと思います。日本の持っている強みと言われているものの裏には、どの次元が作用しているのか、といったことです。そうすると組み合わせが無限になったり、今まで見えなかったことが見えたりするので、是非やってみてください。こうしたことは、もしかすると教育という観点から見ても非常に重要だと思います。自分の力で考える上でサポートにもなります。

 

 

– 人一生の育ちという視点でみたとき、「異文化理解力」をどの時点から身につけていったらよいと思いますか。

 

宮森:生まれてから10—12歳までの間に、国民文化のプログラミングは終わってしまうとお伝えしたと思うのですが、つまりその前はいろいろな物事を心にプログラミングできるんですね。ですので、この時期までにいくつかのプログラミングを持っていた方が、将来グローバルな環境で生きやすいと思います。その時に重要なのは親御さんのサポート。親御さんがどういう風に物事を考えてお子さんを育てるのかと、いうことが大事だと思います。ただ、そういうことができる環境にいる子供さんの数は限られます。

ですので、プログラミングが終わった後に意識して異文化を継続的に学ぶことが重要です。

世界全体が変わっているので、国の文化も変革はします。しかし、 国と国の相対的な関係は、結局そのまま残るんですね。文化は他の文化と比較してはじめて意味を持つということだと思います。その相対性をどう捉えて世界が向かっていくのか、グローバルシチズンとして何が出来るのかという教育をできるだけ早いうちからした方がよいのでは、というのが私の個人的な思いです。

 

私が気になるのは、日本では語学力=異文化適応力と考える方が非常に多いことです。英語が堪能でも異文化適応力の低い人はいくらでもいます。英語力は大事です。しかし、異文化適応力というのは相手の違いを受け入れて共存できるかどうかなので、英語だけで何とかなる問題ではない。そこを切り離す必要がある。日本語でも異文化の違いをきちんと理解することは出来るわけですね。本日一つでもみなさんにとって気づきがあったら嬉しく思います。

未来教育会議の所感

web用DSC00759

「21世紀の多様性と国民文化」をテーマに、ホフステードモデルの視点から宮森氏にお話を伺った。

 

前回の、人一生の育ち対談レポート第二回の平田オリザ氏のお話からも、日本にはそもそも対話という概念がなく、今後は、異文化を理解していくことの重要性が問いかけられていたが、宮森氏からは、文化を可視化する「ホフステードモデル」を通じて、文化とは何か、そして日本ならびに各国の国民文化の特徴とは何かについて、詳細かつ具体的な示唆をいただいた。

 

二つの視点から考察したいと思う。

まず第一に興味深いのは、日本文化の特徴を相対的に理解できることに加え、この視点を用いることで、世の中で起きている様々な事象やその背景を、ニュートラルに理解できる点だ。日々見聞きする世界のニュースを、文化というものさしで読み解けるようになると、複数の要素が絡み合った全体システムを見通すことができ、一つ視座の高い思考につながっていく。

また、多様性のあるメンバーが関わって物ごとを進める時、それぞれの国民文化の特性を互いに知った上で進められたら、不要なストレスを感じずに、効果的な進め方をできるのではないかと実感する。

問題は、宮森氏もご指摘の通り、こうした異文化を体験し理解する機会を、私たち大人も子どもも、どこでどのように持てるかということだ。平田オリザさんの推進される「異文化の環境」を生みだす演劇によるワークショップもその一つであり、小学校、中学校、高校、大学、社会人など、各ステージでさらに多様な機会を生みだしていくことが重要に思う。

 

もう一つ興味深いのは、中庸と極端という特徴を持つ日本の国民文化だ。宮森氏によれば、世界各国の国民文化は、各次元の組合せで大きく6つのグループに大別されるが、日本はいずれのグループにも属さず、唯一独立しているのだという。これの意味することは何か? 一つには多文化共生社会の中で、日本文化の固有性を知ってもらうことの大切さをあげられる。善し悪しではなく、日本の国民文化をしっかり説明できることが、21世紀を生きる人材に不可欠なのではないか。そして、この独自文化をこれからの世界で活かしていくにはどうしたらよいのか。何に活かせるのか。ここはすぐに答えが見つからないが、みんなで考え、探求していくべき大きな問いとして受け止めたい。

 

未来教育会議実行委員会 原節子

 

  • ライター

未来教育会議 実行委員会

未来教育会議実行委員会です。

このライターの他の記事

2018.11.27
12月13日 未来教育会議セミナー
 人の可能性が最大限に開花する「人一生の育ちとは」
2018.11.26
デンマークで人が一生学べる学校を立ち上げる日本人女性―ニールセン北村さん
2018.11.19
12月7日未来教育会議セミナー開催のお知らせ
「リカレント教育と食と農業、漁業の未来を考える」
〜デンマーク発 : 食と農業、漁業にフォーカスしたフォルケホイスコーレとは~
2018.11.15
■未来教育会議レポート一覧はこちらから!
「人一生の育ち(通称ひばり)レポート」
「2030年の未来の社会・教育シナリオ」
「2030年の未来の社会・企業シナリオ」
2018.10.04
「人一生の育ち」を考える ’教育×経済’ 対話 第九回「教育格差を考える」
  • 関連記事
2018.11.27
12月13日 未来教育会議セミナー
 人の可能性が最大限に開花する「人一生の育ちとは」
2018.11.26
デンマークで人が一生学べる学校を立ち上げる日本人女性―ニールセン北村さん
2018.11.19
12月7日未来教育会議セミナー開催のお知らせ
「リカレント教育と食と農業、漁業の未来を考える」
〜デンマーク発 : 食と農業、漁業にフォーカスしたフォルケホイスコーレとは~