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  • 実行委員会の活動
  • 2014.11.13

「未来教育会議キックオフシンポジウム」開催報告

実行委員会の思い

まず、未来教育会議実行委員会代表の熊平美香より、開会挨拶と会議発足の趣旨説明をさしあげました。

「教育関係者みんなが、より良い教育を子どもたちに届けられるように懸命にやっているが、教育システムがうまくいっていないため、目指すイメージやゴールがバラバラになっている。課題に対する対処療法的なアクションは増えるが、根本的な問題が解決されないので、劇的に良くなることがなく、大事なことが子どもたちに届いていない。21世紀の学習に向けて、子どもだけでなく我々大人も学習が求められている。」

このように、多様な主体(マルチステークホルダー)が一緒になって、目指すべき未来の社会を考え、そこに生きる人々に求められる力を考え、そのために必要な教育を考えていきたいという未来教育会議の特徴や、実行委員会メンバーが今現在考えている課題認識をお話させていただきました。

そして、教育は社会の投影であり、誰もが教育に影響を与えていることをふまえ、参加者ご自身の教育観についても内省を深める一日にしていきましょう、との問いかけがされました。

キーノートスピーチ

続いて、キーノートスピーチです。

まずは「大きな教育の目的」という視点から、専門の異なるお二人のキーノートスピーチをいただきました。

劇作家・演出家であり大阪大学の客員教授等をつとめられる平田オリザ先生からは、「わかりあえないことから」というタイトルで、コミュニケーションという視点から教育を語っていただきました。

グローバル化が進む今、様々な文化や習慣を持つ人々と共生する機会が増え、従来の日本人同士のコミュニケーションの取り方では、通用しない場面が増えてきた。企業が社員に求める能力の中で、企業の80%はコミュニケーション能力を重視項目にあげているが、コミュニケーション能力とはいったい何なのか?

普遍的なコミュニケーションはなく、様々なコミュニケーションの方法があるので、若い時から一つのコミュニケーションに縛られることなく、多くの経験を積むことの大切さも指摘されました。「汽車の中で乗り合わせた人と会話をするか」という具体的なシーンにはじまり、コンテクストの違いやずれが生み出すコミュニケーションの問題へと、深く思考を掘り下げていく平田先生。コンテクストを意識してコミュニケーション力を鍛え、相手の気持ちを理解しながら関わることが、21世紀を生きる私たちに求められているのではないでしょうか。

続いて、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎先生からは、教育を「イノベーション」の視点から語っていただきました。

国の教育体制や教育費についてマクロデータをベースに、アメリカのフェデラル・エクスプレスなどのイノベーションの事例をひもとき、歴史と世界を俯瞰しながら、イノベーションを促進する教育には、多様性、基礎学力(読み・書き・算数)、考える力、行動する力、そして可逆性が重要だと指摘する米倉先生。

ダイナミックにパワフルに会場を盛り上げていくお二人のキーノートスピーチに、思考を大きく揺さぶられる想いがしました。

若者たちの挑戦

続いて、「若者たちの挑戦」と題し、学生の立場にあるお二人の方から、当事者の力強い声を聞かせていただきました。

「僕らの一歩が日本を変える。」代表の青木大和氏からは、若い人が社会を変えていくために立ち上げたという同団体の活動紹介を中心に、自らの志を熱く語っていただきました。

高校1年生の時に渡米し、オバマ選挙に刺激を受けて社会活動に参加した青木氏は、若い人が政治に関心をもつ機会を増やすため、全国一斉模擬選挙といった様々な活動を推進。

「自分ひとりが頑張っても変えられない。みなさんと一緒に頑張って、将来の日本を変えていきたい」というメッセージをいただきました。変えられないと思っていることは、本当に変えられないのだろうか。自分の思い込みではないのか。このような刺激を受け取りました。

慶應義塾湘南藤沢高等部三年生(2014年3月時点)の高橋愛海氏からは、自分の中に、ある時生まれた「なぜ勉強しなければならないのか」という違和感を大切にして、自身の生き方を問い直し、結果として、進学する学部を変更したというエピソードから、雰囲気に流されず、違和感に目をつぶらず、ほかの誰でもない自分の生き方を考えて、ぶれない自分をつくることの価値を訴えていただきました。「自分の生き方を信じていきたい。肩書きではなく、自分が本当にやりたいことをやりたい。」というメッセージから、本来あるべき教育の姿が見えてきました。

「ここが、今日のハイライトだった!」との声も多くいただくなど、若者二人の想いのこもったスピーチに、会場が大きな感銘を受けた40分でした。

新しい教育に挑戦する先駆者たち

お昼休みをはさみ、午後のはじめのセッションは、四人の「新しい教育に挑戦する先駆者たち」からのトークリレーです。

京都市教育委員会参与の村上美智子先生からは、校長を務めた京都市立御所南小学校での取り組みをご紹介いただきました。

村上先生は、子どもの主体性を育み、自分で考え、共同的に学ぶ力を身につけるフィンランド・メソッドという新しい教育を公教育に導入し実践していったというチャレンジを。決まった方法でしか教えられないと思っていた公教育ですが、子どもたちの成長を願う現場の先生方の行動でこのような取り組みが生まれたことに、希望を感じました。

住友商事株式会社の河野純子氏からは、グローバルスキルを日本の子どもたちに身につけてもらいたい、というミッションを、東京インターナショナルスクールと提携し、事業化し、実現するというチャレンジを。教育と直接関係のない企業が、このように教育に関わっていくことの必要性を感じました。社会のあり方には企業でのニーズが色濃く反映されているので、その企業が教育のことを考えていくと、教えていることと実際に必要となる力にずれが生じないと思いました。

株式会社教育と探求社代表取締役社長で、未来教育会議実行委員会メンバーの宮地勘司からは、企業から出される本気のミッションに子どもたちが挑む「クエストエデュケーション」を例に、子どもも教師も企業も共に学ぶ、新しい学びづくりへのチャレンジを。学校と企業が連携し、共に教育をつくっていくという新たな教育の形が存在することを知りました。

佐賀県武雄市教育監の代田昭久氏からは、公立小学校で全員にタブレット端末を配布し、家庭での学習と連携した「スマイル学習(反転授業)」を行うという、地域から教育を変えていくチャレンジを。それぞれの子どもにあった学習を学校教育で継続していけることに可能性を感じました。

4人の先駆者の皆様からは、挑戦の根底にある願い、これまでに実現できたこと、これからチャレンジすべきことについてそれぞれご紹介いただきました。

プレゼンテーションの熱が、会場全体にあつく伝わっていきました。

 

ワークショップ①

トークリレーのあとは、実行委員会事務局の博報堂 原より、未来教育会議の推進体制や今後一年間の活動計画をご紹介させていただきました。

社会テーマをマルチステークホルダーでともに解決していくための博報堂オリジナルプログラム「bemo!(ベモ)」の紹介をはじめ、「マルチステークホルダーで、ともに先駆的な国内外の教育の現場を旅しながら(=スタディ・ツアー)、そこから未来の社会と教育システムの全体を洞察し、アクションを創出し よう」という活動のステップをご説明いたしました。

この後は、参加者全員でお話いただくダイアログの時間です。会場を東洋大学の食堂に移して、4~5人でテーブルを囲みます。

そして、ここまでの数々のスピーチを振り返りながら、未来の教育のありたい姿やご自身の教育観について、ゆっくり気づきを共有していきます。

まず、ファシリテーターの実行委員会事務局、博報堂 兎洞からの問いかけで、どのような立場の方がここに集っているのか、皆さまに手を挙げていただくところからスタートしました。

学校、学生、企業、NPO、行政、学生、保護者など

いろいろな立場の方が集う、まさに多様性の高い場となっていました。

それぞれ、所属しているところは違えど、未来の社会をより良くするため、子どもたちが幸せに生きられるため、何かをしたいという想いや願いは共通していると感じました

ワークショップ②

続いて、テーブルごとに自己紹介をしていきました。

お名前。日頃は何をしているか。今日なぜここに来たのかの想い。

代表の熊平が冒頭に掲げた写真の赤ちゃんに、どのように育ってほしいと願ったか。午前中で印象に残った言葉。

そうしたことをゆっくりと語り合っていきました。

自己紹介を終えて、ファシリテーターから会場の皆さんに

「問い」がプレゼントされます。

最初の問いは

「これまでの話を聞いて、今ここで話したいことはどのようなことですか?」。

色ペンをひとり一本持ち、テーブルの上に敷かれた模造紙の上に、印象に残ったことや感じたことを自由に落書きしながら、対話を重ねていきます。

「平田さんの話の中で、相手がどんな文脈で話しているのか考えなきゃダメということが印象に残った。」

「この場に、実際に子どもたちにいてほしい」

「米倉先生と若者たちの話を続けて聞いて、”教育とは、ひとりの個人が自分自身をイノベーションさせていくことなんだ”と思い至った」など、スピーチを聞いて感じられたことを次々と語り合っていきました。

話が盛り上がってきたところで、「席替え」です。

同じテーブルを囲む四、五人のうちの一人が「主人」としてその場に残り、あとのメンバーは「旅人」として、それぞれ別のテーブルに移動していきます。

「主人」は、新たに訪れた「旅人」たちに、このテーブルでどんな対話が起こったかを共有し合い、さらに語り合いを広げ深めていきます。

ワークショップ③

そして、二つ目の問いがプレゼントされました。

それは、「生まれてくる子どもたちにどのように育ってほしいですか?

未来の教育についてどのような願いがありますか。 」というものです。

お互いの想い、願いを伝え合っていきます。

「子どものきらきらしたところを見たい。立場が違っても、そういう根本的なことでは、みんな思いは変わらない」

「教育のかたちは多様化されるべき。そうすることによって考えが凝り固まらず、いろいろな価値観が育っていく。」

熱い発言が続いていきました。

ここで、再びの「席替え」があり、

最後の問いのプレゼントです。

「私たちは、どのように未来の教育をもっと素晴らしいものにしていけるでしょうか。 こども、親、学校、地域、国、自治体、教育委員会、一般企業、 教育関連企業、NPOは、どのように新しい関係を築けるでしょうか? 」

一日のクライマックスとなる対話に、各テーブル、いっそう活発に話を繰り広げていきました。

グループのメンバーが入れ替わることで、「対話の他家受粉」が産み出されていく、そんな醍醐味が感じられた瞬間でもありました。

ワークショップ④

「自分自身も世界を変えていく力の一環になりたい。」

「まだ知らない価値観を持った、いろいろな人と話がしたい。」

「みんなでつながればもっと大きなことができるのではないか」

「大人が頑張っている姿を見せることは、子どもたちにとって良いことだと思う。自分たちも頑張っていきたい。」

3つの問いを中心とした対話を終え、数名のご参加者からの感想をいただいて、いよいよ丸一日のシンポジウムとワークショップも終わりに向かいます。

締めくくりは、本日一日の体験を経て、参加者おひとりおひとりが感じられたことを、それぞれ一枚のふせんに書いていただきました。

 

一つ一つ熱い想いのこもった言葉が、生まれていきました。

 

***

 

ご参加いただいた皆さまからは、多くの学びがあったというメッセージをたくさん頂戴しました。私たち自身もたくさんの学びと気づきをご講演者や参加者の皆さまからいただきました。

皆様からのメッセージは次の機会に詳細ご報告させていただきたいと思います。

ご参加いただいた皆さま、ご講演いただいた皆さま、シンポジウム会場をご提供いただいた東洋大学さま、運営にご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました。

皆さまのおかげで素晴らしいキックオフとなりました。

未来教育会議は、これからも皆さまと共に対話をし、共に学びながら、真摯に活動を進めてまいりたいと思います。

  • ライター

未来教育会議 実行委員会

未来教育会議実行委員会です。

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