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  • 未来教育リポート
  • 2015.03.30

自律的な学びを促す教師は、TeacherからExpert in Learningへと役割を変える

最近、アクティブラーニングや反転授業という言葉を、新聞やニュースで見かけることが増えてきたと思います。

 

タブレットを手に持ってグループ学習などをやっている様子が報道されると、タブレットというデジタルデバイスや、グループ学習という方法論に焦点があたりがちです。しかし、それはツールや手段であって本質は違うところにあります。

 

では、本質は何かというと、教育目標の転換にあるのではないかと思います。

 

工業化社会における学習者像は、社会の部品として規格を満たす労働者を育成するところに重点が置かれていたのではないかと思います。それは、あたかも四方八方に伸びようとする枝を矯正して、好みの形に葉を刈りそろえられた盆栽を作るようなものです。学習者は、外部から定められた「形」に自らを当てはめていくことを期待され、それと引き換えに安定した生活を社会から保障されるという構図が成り立っていたと思います。

 

しかし、グローバル化が進み、終身雇用制が崩壊しつつある時代になると、個人は一生のうちで、環境の変化に応じて役割を変化させながら生きていくことが求められるようになります。安定した生活を組織に保証してもらうことが難しくなってくる時代に頼りになるのは、必要に応じて四方八方に枝を伸ばしていく生命力ではないでしょうか。学習者が本来持っている生命力を外部から矯正して弱めるのではなく、適切な環境を整えて漲らせていくことが、これからの教育現場に必要になってくるのではないかと思います。また、異なる価値観と出会い、対話によって自分自身のメンタルモデルを振り返りながら非暴力的、かつ、創造的に問題を解決していくスキルも求められるようになってきます。

 

その中で、注目されているのがアクティブラーニングであり、反転授業なのです。

 

生徒が生命力を漲らせて、自ら問題意識を持って学び、主体的に生きていくことに対して、教師はどのような役割を果たしたらよいのでしょうか?

LEAFモデルで英語教育を変える江藤由布さん

このような問題意識を持って、21世紀に力強く生きていく生徒を育てることにチャレンジをしている教師の一人が、近畿大学付属高等学校英語科教諭の江藤由布さんです。江藤さんは、英語特化クラスを担当しており、英語を学ぶ姿勢を通して、自律的に学ぶ生涯学習力を身につけることに取り組んでいます。

 

江藤さんの授業の特徴は、江藤さんが作った造語であるLEAFモデルに集約されています。

 

  Live contents

 all English

  Active Learning

  Flipped Classroom

 

江藤さんは、教室の中で閉じるのではなく、社会で実際に使われている英語コンテンツを使い、授業中は教師も生徒もすべて英語で会話し、アクティブラーニングや反転授業というスタイルで授業を進めています。

 

LEAFモデルによる日々の授業が、自律的な生涯学習力の育成にどのように繋がっていくのかをインタビューを通して明らかにしていきたいと思います。

学校での学びと社会での学びとを結びつける

江藤さんが担当している英語特化クラスでは、各学年ごとにどのようなことを目標にしているのですか?

 

高校1年生には、学習態度を身につけてもらうところから始めています。中学校でプリント学習を中心に勉強してきて、それが勉強だと思い込んでいるので、まずは、それを忘れてもらうことが重要です。教室でやっていることも、文化祭も、すべてが繋がっていて意味があるということを、繰り返し繰り返し話します。英語学習としては多読と、文法の自動化に重点を置いています。

 

学年が上がるにつれて、少しずつ、こちらの言っていることが分かってきて、自分から動けるようになってくるので、そうなってきたら、難しい内容を無茶ぶりします。そうするとこちらの予想を生徒たちが超えてきてくれて、自ら学ぶ楽しさを理解してくれるようになります。

 

3年生になると、社会で生きていくことと学ぶこととの関係性をテーマとして扱います。授業でやってきたことや、学校生活の中で取り組んできたことが、自分の将来にどのように関係しているのかを理解し、役立てられるように導いています。

 

具体的には、どのようにして授業が進んでいくのですか。

 

3年間を通して授業の枠組は同じです。

 

(1)英語のインプット

(2)マインドマップ作成

(3)ビジュアルレポート作成

(4)ディスカッション

(5)プレゼン、または、レポート

(6)リフレクションと評価

 

というサイクルを、年間10回ほど回していきます。たとえば、「ユニバーサルデザイン」についてのリーディング教材を扱ったときを例にして説明すると、

 

(1)オックスフォードのリーディング教材(内容:女性がおばあさんの変装をして町に出たら、町の様子がどのように見えたか。)を読む。

 (2)ユニバーサルデザインについて、どのようなことで困っている人がいるのかなどを、各自が調べてiPadアプリSimplemind+を使ってマインドマップを作成し、教師にメールで送る。

(3)グループ内で各自が調べてきた内容をシェアし、写真や絵を中心にまとめたレポート(ビジュアルレポート)を作成し、プリントアウトする。

(4)プレゼンテーションへ向けて、グループ内でディスカッションを行い、内容を整理する。

(5)iPadを使ってプレゼンテーションを行うか、または、レポートを提出する。

(6)評価基準を共有し、生徒が何がよくて、何が悪いのかを理解した上でプレゼンテーションについてのリフレクションと評価を行う。

 

というようになります。

 

(1)-(6)の中には一斉講義型の授業は入ってこないのですか?

 

説明や解説が必要なときは、Show me等のアプリを使って動画講義を作って補います。教室で生徒中心の活動をさせるために、一方向的な説明は動画にして、各自で見て学べるようにしています。

 

Live contentsを使った生きた学びや、英語でのディスカッションやプレゼンテーションといった活動に時間を割くための反転授業ということですね。All Englishということは、江藤さんの解説動画や、授業中の指示、生徒同士のディスカッションやプレゼンテーション、これらがすべて英語で行われるということですか?

 

はいそうです。英語でディスカッションするのは英語力がついてきてもすごく難しいのですが、マインドマップがあることで自信を持って自分の言いたいことを伝えることができます。

 

江藤さんの授業では、これから社会で生きていくために、どうして英語を学ばなくてはいけないのか、どうして調査が必要なのか、どうしてグループワークが必要なのか、どうしてプレゼンテーション力が重要なのかが体験を通して納得できるようになっているのがすばらしいですね。社会で生きていくことと教室との学びを結びつけることで、生徒自身で、学ぶ意味を理解できる構造になっているんですね。

 

リフレクションと評価は、生徒が行動変容を起こしているために重要なポイントになると思いますが、どのようにしているのですか?

 

大切なのは、評価ポイントを生徒自身が理解して改善することなんです。レポートであれば複数の生徒の例をプロジェクターで映して、よいところや足りないところを具体的に示して、もう一度書かせるようにします。Showbieなどのアプリを使うと、この作業がとても楽です。プレゼンテーションであれば録画したものを見ながら、生徒と一緒に評価ポイントを指摘するのが有効です。最初は何で評価されているのかが分からなかったり、評価項目の理解が不十分だったりするので、評価を客観的に理解することには、かなり時間をかけて取り組む必要があると思っています。

 

評価の仕方も、生徒のレベルに応じて変化していきます。

例えば、1年生のときの発表には、例えばレシテーションコンテストがあります。はっきりしゃべるために割り箸を咥えさせたり、背中合わせで5m離れて立たせて相手に聞こえる声の大きさで話す練習をしたりしています。そして、生徒の発表を、評価基準を示した上で教師が評価しています。

 

2年生になると、生徒の評価項目に対する理解が深まってくるので、生徒自身が客観的に評価できるようになってきます。次の手順でルーブリックを作成し、生徒同士でプレゼンテーションを評価させるようにします。

 

1)知らない顔をして一回ひどいプレゼンをさせる。

2)録画動画を視聴させ、振り返りワークシートに気づいたことを書かせる。

3)全員が書いたことを全員で共有し、気づいたことを発表してもらう。

4)出て来た意見をもとに、わたしがルーブリックを作成する

5)ルーブリックをSurveymonkeyでまとめて、Edmodoからアクセスできるようにする

6)オンラインで評価

7)評価を全員で共有

8)気づいた点を書き留め、もう一度共有

 

生徒に振り返りワークシートを書かせると、こちらの予想をはるかに上回る辛辣な意見が出ますが、生徒同士だとよく聴きます。

 

ポイントは、失敗させることと、個人のリフレクションを一度全体で共有することです。全体で共有することで、

 

1)自分の発言に対し責任が生まれる(言いっぱなしのリフレクションにしない)

2)他人の発言との比較で自分の行動を客観視できる

3)自然に正しい方向に収束する

 

ということが起こります。

 

私の授業では、平常点の割合はかなり高いのですが、途中経過で平常点がはっきり分かるとモチベーションが下がるので、はっきり分かるようにはしません。試験が終わった後に、誰が何点というのをある程度分かる形で配信します。

 

課題を出すときには、いくら早く出してもいいし、言われた以上にたくさんやっても良いというように上限を設けないようにしておくと、やらなくてもよいのにいっぱい課題をやってくる生徒が出てくるので、それを態度評価として、平常点に加点しています。

授業の中でキャリアモデリング

江藤さんの授業では、3年間を通して社会と教室での学びとが結びついていますが、その集大成となる3年生の2学期にはどのようなことをされたのですか?

 

3年生の2学期は、将来について考える時期なのでキャリアモデリングを授業の中で行いました。ちょうどその頃に「ビジネスモデルYou」と出会い、これは使えると思って3日間で猛勉強して授業に取り入れました。

 

最初は、ビジネスモデルYouの本にある100個くらいのキーワードの中から5つのキーワードを選ぶところから始めました。自分自身のキーワード5つと、クラスメイト3人のキーワードを5つずつ選び、どうしてそのキーワードを選んだのかというエピソードを考えさせました。

 

このワークを通して、ジョハリの窓のように、自分も他人も知っている自分、自分は知っているけど他人は知っている自分、自分は知らないけど他人は知っている自分、自分も他人も知らない自分などがはっきりしてくるので、自分に対するリフレクションができるんです。

 

自分自身が見えてきたら、社会の中の「困りごと」を調べてシェアし、自分はそれに対してどのような価値を提供できるのかを考えて、ビジネスモデルを作成しました。

 

江藤さんが、キャリアモデリングに注目したのはなぜですか?

 

自分自身と社会とを結び付けていこうとしたときに、生徒は自分のことを知らないし、どんな仕事があるのかを知らないんです。その状況で「やりたいこと」や「夢」を考えてもあまり意味がないと思いました。

 

また、変化の激しい時代には、今存在している仕事の中から選択していくという姿勢ではなく、起業家マインドを持って他の人が困っていること、他の人ができないことを探して、それを手伝って対価を得るという考え方が必要になってくると思います。ですから、まずは、社会の「困りごと」についてしっかり調査させて、調査結果をシェアしてグループで話し合って、最終的にビジネスモデルという形でアウトプットさせました。

 

調べて、グループワークして、アウトプットするという流れを1年生のときから繰り返しているので、ビジネスモデルYouもスムーズに取り組めたんですね。普段の授業でやってきたことと社会とのつながりが、より具体的になってきましたね。

 

その頃、反転授業の研究で紹介されていたダニエル・ピンクのTED動画『やる気に関する驚きの科学』と出会いました。それで、人間が働く動機をテーマにした授業を行いました。生徒にダニエル・ピンクの著書である『Drive』を読んでみたらと無茶ぶりしたら、10人ほどが原著を購入して読み始めました。その他にスポーツや、理想の教育などにおいて動機がどのように関係するのかといったテーマを提示し、生徒たちはグループごとにテーマを選んで、調査→グループワーク→プレゼンのサイクルを回しました。

 

内発的動機に基づいて行動することを促されてきた江藤さんの生徒さんにとっては、ダニエル・ピンクの話は身近なテーマだったのでしょうね。今までやってきた学びを振り返ってメタ化する効果があったのではないでしょうか。

 

そうですね。その後、6色ハット発想法をやりました。ずっとディベートをやりたいと思っていたんですけど、どうやって議論の質を上げたらいいのかが分からずに方法を探していました。そこで、6色ハット発想法に出会って、これなら二項対立を超えて相互理解へ向かうスキルを学べると思いました。

 

この頃、江藤さんの口から「世界平和」というキーワードが頻繁に出ていたことを覚えています。この時期に6色ハット発想法をやったことで、高校1年生から続けてきたグループワークが、どのような意味を持っていたのかということを振り返ってメタ化することができますよね。他の人の視点を取り入れて問題を多面的に見れるようになったり、自分の意見を表現してフィードバックをもらうことで気づきを得たりという経験を重ねてきたからこそ、その経験を土台にして対話のスキルを学ぶことができたのではないでしょうか。

 

一番最後のサイクルは、どのようなことがテーマだったのですか?

 

私がビジネスモデルYouについて学んだときに、Udemyを利用したんです。その話を授業でしたら、生徒のほうからUdemyやCourseraで学びたいという提案が出てきたので、「評価はどうするの?」と聞いたら、「自分たちで学んだことをまとめて動画を作る」という返事が返ってきたので、生徒の提案に乗りました。私は、これを「逆コーセラ」と名付けています。

 

評価の仕方についても生徒から提案があるところがすばらしいですね。MOOCsなどを使って英語で学ぶスキルが身につけば、自律的な生涯学習力を格段に高めることができますよね。英語特化で3年間教えてきた結果として、生徒自信がオンラインの学習リソースを使いこなせることのメリット、英語で学ぶことができることのメリットを自分自身で感じられるようになったというのは素晴らしい成果ですね。

 

江藤さんがやってきたことを振り返ると、大きな方向性はぶれずに決まっていますが、具体的に何をやるのかは、結構、その時々で柔軟で、江藤さん自身が学びながら進めていきますよね。江藤さんの存在は、生徒にとってはどのようなものなのでしょうか?

 

私は自分のことをTeacherではなく、学びのエキスパート(Expert in Learning)だと最近強く思うようになりました。学びの背中を見せ、学び方の学び方を学ぶ手助けをする人です。私自身が、そのときに感じていることを大切にして学んでいき、その背中を見せながら授業に落とし込んでいくことで、生徒の主体的な学びを促すことができるのではないかと思っています。

 

らせんを描きながら、理解の抽象度を高め、世界を広げていく

江藤さんの授業では、高校1年生から3年生まで、インプット→調査→グループワーク→アウトプットというサイクルを回しながら、らせんを描くように自分自身や社会についての理解の抽象度を上げていき、同時に英語を、世界を知り、世界の中で自分が主体的に生きていくためのツールとして使いこなせるようになっていく仕組みが出来上がっています。

 

生徒は、ときには江藤さんの無茶ぶりに戸惑いながらも、自ら学ぶことの面白さに気づいて、自分から一歩踏み出して枝を伸ばしていくのです。

 

 

21世紀の学びを考える上のヒントが、江藤さんの授業には凝縮されていると思います。

 

 

進化し続ける江藤さんの授業は、今後、どのようになっていくのでしょうか?期待しながら見守りたいと思います。

  • ライター

田原真人

Facebookグループ「反転授業の研究」主宰。オンライン教育プロデューサー。

河合塾などで10年以上、予備校講師として物理を教えてきました。2005年に物理ネット予備校を立ち上げ、オンライン教育に関わるようになり、それ以来、動画講義やビデオ会議室を使って学習効果を上げる方法について独自に取り組んできました。

2012年に反転授業と出会い、反転授業やアクティブラーニングについての集合知を生み出すためのFacebookグループ「反転授業の研究」を立ち上げたところメンバー数が2年間で約3000名に増えました。

現在は、グループの主宰者として、ほぼ毎月、オンライン勉強会を開催したり、動画講義やアクティブラーニング、授業設計、ファシリテーションなどを学ぶオンラインワークショップの企画・運営をしています。
 
教育現場で学習者が主体的に学ぶのを促すためには、教師が主体的に学ぶ必要があると考え、教師だけでなく、教育に関心がある様々な属性の人たちが学び合える場をオンラインに作っています。
 
今、手応えを感じているのは、オンラインの交流によりメンタルモデルを作り変え、Growth Mindsetに切り替えていくようなダイナミックな学び。周りを巻き込んで主体的な動きを創り出すために、自らが主体的にチャレンジしていくことを心がけています。
 
21世紀型の学びのコンセプトを発信するために

「21世紀マインドセット」
http://phys-yobiko.com/mission/

を実施し、オンラインに学び合いの場を創っています。
 
また、今後は、国境を超えて交流しながら学ぶ、国際交流学習にも積極的に取り組んでいく予定です。

著書『微積分で楽しく高校物理がわかる本』、『日本一詳しい物理基礎・物理の解き方』、『これから物理を学びたい人のための科学史/数学』など10冊。
 
田原真人.com
http://masatotahara.com

「反転授業の研究」ブログ
http://flipped-class.net/wp

フィズヨビ
http://phys-yobiko.com

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