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  • 実行委員会の活動
  • 2018.03.20

「人一生の育ち」を考える ’教育×経済’ 対話 第五回「21世紀の社会人教育」

ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 代表取締役社長 安渕聖司氏 × 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授 高橋文郞氏

第5回は「21世紀の社会人教育」がテーマ。企業や組織での学びについて、主に『リーダーシップを育む』というテーマが焦点となった。

今回お招きした1人目は、事業会社内で学びを構築してきた経験を豊富に持つ、ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社の代表取締役社長 安渕聖司氏。GEでのリーダー経験を持ち、現在は全世界累計発行枚数31億枚を誇るクレジットカードを支える決済ネットワーク、Visaの日本の代表を務めている。同社が強い組織たる所以の1つが、人材育成における仕組みと考え方。リーダーシップが育まれる土壌はどのようにできたのか、その実態に迫った。

そして2人目、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授を務める高橋文郞氏は、21世紀初頭のエンロン事件や世界金融危機などを受け、ビジネススクールの改革を行ってきた立役者。経営の根幹をなす思想の面から経営学を学んでいけるようシフトしてきた。リーダーに求められる”謙虚さ””真摯さ”といた人間性について、古典を紐解いて語っていただいた。

世界中の知が結集する社内学習システム

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安渕氏が牽引するビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社(以下Visa社)は、世界200カ国以上で利用できるクレジットカードVisaの決済ネットワークを持つ企業だ。社員数は総勢1万4000人。世界中でブランド力を持ち、大きな基盤を持つ今でも尚、挑戦心あるリーダーを育て続けている。今回は「企業における社員と教育」というテーマでお話を伺った。人材育成のポイントは、行動や評価の基準となるものを明確に定めている点にあるという。

 

「我々の教育におけるベースは、リーダーの行動基準・評価基準となる『リーダーシップ・プリンシプルズ』というものです。ビジネスの目的が”WHAT”(何をやるのか)なのに対して、リーダーシップ・プリンシプルは”HOW(どのように実現するか)”の部分に当たります。WHATだけでなく、HOWも含めた2軸で人の評価・育成に取り組んでいるのが特徴です。これが活かされるのは、例えばメンバーの評価・育成の場面。年に1度全世界キックオフがあり、優秀なメンバー又はチームは表彰されるのですが、表彰のテーマはそれぞれこのリーダーシップ・プリンシプルに紐づいています。こうして、この組織で求められることは何か、その行動基準を明確にしています。」

LeadershipPrinciples

社員が成長していくための環境も大々的に構築している。ビザユニバーシティと呼ばれる、社内研修施設を2箇所で設立、かつオンラインでもアクセス可能としている。Visa社が戦略的な人材育成に取り組んだのは2015年のことで、この研修施設は2016年に立ち上がった。こうした人事部門は経営と切り離されて存在する企業もあるが、Visa社では『人事はすなわち戦略』という方針に基づき、ストラテジー(戦略)部門が管轄しているという。

 

「Visaユニバーシティを作るにあたって、コーポレートキャンパスを持っているいくつかの他社事例を尋ね、大学のコンテンツ調査なども行いました。他企業と異なり、職場の近くにあることを優先し、今は2拠点でオフィス内に創っています。

 

カレッジは大きく3つから構成されています。まずVisaペイメンツカレッジは、我々の事業内容である、決済の専門的な知識を得るためのカレッジ。”WHAT”を学ぶためのものです。リーダーシップカレッジは、Visaのリーダーシップ・プリンシプルを常に体現し導くためのカレッジ。自分自身をリードする人も、他の社員をリードする人も、このプリンシプルに従います。これが”HOW”を学ぶためのもの。そして役割に特化した研修は、テクノロジーやリーガル、HRなどいわゆる決済事業以外の専門家としてのスキル向上のために用意しています。」

 

こうしたカリキュラムは世界中の社員に届けられるよう、デジタルキャンパスになっている。注目すべきは、その内容だ。企業内の学びに閉じず、いわば世界各地にある”知”を体系立てて学べる仕組みになっている。

 

「youtubeやTED、ハーバード大學の授業など、外部コンテンツも取り入れて、教材を作っています。1カリキュラムに、実は様々なリソースからコンテンツを取り入れているんです。今、教材になりうるコンテンツは世界各国にありますし、どんどんオープンになっている。でも自分で何かを学ぼうとしたときに、何をどの順で学んだら良いかわからないというケースが多いと思います。このデジタルキャンパスでは、何をどのような組み合わせで学べば効果的に学べるか、体系立ててありますので、容易にわかるようになっているんです。」

’良質な修羅場’ が優秀なリーダーをつくる

Visa社にはこうしたしかけ、学びの場が設けられており、研修に注目が集まることが多い。しかし企業の成長を促す元となっているのは『社員全員がリーダー』という、企業としての考え方にある。

 

「『採用基準(ダイヤモンド社)』という、元マッキンゼーの伊賀泰代氏が書いて話題になった本がありますよね。全ての人がリーダーシップを発揮すると、生産性が高まるという考えを紹介していると思いますが、この考え方はグローバルな環境においては常識です。」

 

安渕氏は学びの場の80%は仕事の現場、研修は20%だと考えている。日常の業務を通して学ぶことの方が、成長には重要だという。GE時代の学びから、仕事で強い会社(チーム)を作るためには、3つの観点が重要だと考えている。

 

「まずはチャレンジ&ストレッチしてもらうということ。今年120%できたら、次は更なるチャレンジに向かう。得意なことだけでなく、未経験や不慣れな仕事・分野にも挑戦して、できることの幅を広げることが大事かと思います。仕事ができる人は、そうやってパフォーマンスのレベルを上げ続けるわけですね。

あと”良質の修羅場”をということばがありますが、これを乗り越えることは大事だと思います。例えば市場が変わり、急にスター商品が売れなくなったとか、部品に欠陥がでて大きなクレームが起こるなど、いくらでもあると思います。そんな時には優秀な人材にこの修羅場と向き合ってもらいぐっと成長するきっかけにしてもらいます。ビジネスをしている者としてはリーマンショックは大変な出来事だったわけですが、そんな時だからこそ光る人が出てきた。東北大震災のあとに、大変優秀な人材が東北から出てきている。それに通じるものがあるでしょう。

 

2つ目は、自分の頭で考えてもらうこと。小さくても良いので、例えば責任者として意思決定してみたり、リスクをとる。小さな予算をつけてチームをマネジメントしたり、自分の頭で考える機会を持つことが、成長において非常に役に立ちます。

 

3つ目は、自分を磨き続けてもらうこと。セルフアウェアネスとも表現しますが、まず自分の強み、これから成長しなければならない分野を知る。それも個人の中に閉じず、360度評価などを通じてチーム全体で知っていること、課題があればその場ですぐに伝えることも必要ではないでしょうか。同じことを同じようにやって結果が出続けることはありませんので、変化を起こし、違ったやり方に挑戦することが必要です。そして、知的好奇心をもって、学び続けること。例えばマネジメントチームも含め、皆でプログラミングを学ぶ。そこで得手不得手も出るわけです。そして、ITに対して知らなかったから、これまで曖昧な指示を出してしまっていた、と気づきのある人もいました。そうやって、自分の専門性に留まらず、広く学んでいくことが大事ではないかと思います。」

’謙虚’ なグローバルリーダーを育むために

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青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授の高橋文郞氏は、2007年研究科長に就任後「ビジネススクールは、どのようなビジネスリーダーを育てるべきか」という課題に直面した。21世紀に入って起こったITバブルやエンロン事件、世界金融危機の後、世界中のビジネススクールが「単なる金儲けのスキルだけを教える機関では」と批判を受けていたのだ。世界のビジネススクールが次なる方向性を模索している中、高橋氏は青山ビジネススクール(以下ABS)の2代目研究科長として、2009年ごろからABSのミッション策定に関わった。

 

「どういうビジネススクールを作ろうかと、周りのご協力を得ながらミッションを検討しました。その結果掲げたのは『社会的責任を果たし、地球市民として活動する、創造的リーダーの養成』というもの。当時、強欲な資本主義というものが批判されていましたので、世界のビジネススクールでもより社会貢献性が高く、世界を変えていけるようなビジネスリーダーを育成しようと、ミッションの方向性ががらりと変わっていきました。

 

その中で、我々は人材育成の目標として『謙虚で人間性豊かなビジネスリーダーを育てること』を掲げました。では、謙虚さとグローバルに活躍することとはどのような関係があるのか。そのことについて説いていたのが、元富士ゼロックス会長小林陽太郎氏でした。元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんなどの人物を例に挙げながら『私の知っているグローバルリーダーは、皆謙虚だ。言語や文化や宗教が異なる他国の人間を理解するためには、リーダーは謙虚でなければならない』と語ったのです。まさに目から鱗が落ちる思いでした。」

 

ビジネスと謙虚さ、一見結びつきにくい内容だが、その重要性を説いている人物は他にもいる。そこで重要とされるのが、先人の知恵に学ぶ”古典”の存在だ。

 

「今道友信 東京大学名誉教授は『リーダーに最も必要とされる徳は謙虚さである。これが進歩・向上のもとである。優れたリーダーになるためには、何よりもまず古典を学び、どのような危機をも克服できるように自己の精神を鍛錬しなければならない』と説いています。古典というのは、今でいうリベラルアーツのことですね。古典は普遍性があるから、時代や場所を超えて長く読み継がれているのだと思います。そういう意味では、先人の知恵から学ぶ、教養を身につけることが大事ではないかと思います。

 

では、教養とは何か。村上陽一郎東京大学名誉教授は、「教養とは、自分に対して則(のり)を課し、その則のもとで行動できるだけの力をもつこと(=規矩)である。」(『あらためて教養とは』 新潮文庫)という表現をしています。教養というのは、狭い意味での知識ではなく学歴にも関係ない。叩き上げの経営者であっても、素晴らしい人柄や深い人間性がある人はいる、こういう人を教養のある人と語っています。ABSでも、こうした人材を育成したいと考えて目標を掲げ、実践して来たわけです。」

リーダーに求められる3つの要件

では、リーダーに求められる要件とは何なのか。高橋氏は、ポイントは3つだと話す。

 

「リーダーの第1の要件は、論理的思考だと思います。小倉昌男 ヤマト運輸取締役会長は、当時政府の規制に反してでも今の事業を立ち上げたわけですが『経営者にとって一番必要な条件は、論理的に考える力を持っていることである。なぜなら、経営は論理の積み重ねだからである。経営にはいろいろな場面で計画が必要である。そして計画を立てるには、予測をしなければならない。その予測が当たるか、当たらないか。経営者には鼎の軽重を問われる場面である。前提条件があり、予見が与えられ、目標が決められ、行動に移す。そして、期待した通りの結果が出るかどうか。それは経営者の読みが深いか浅いかにかかっている。』(小倉昌男 『小倉昌男 経営学』 日経BP社)と説いています。正直、ABSで教えていると日本人の論理的思考力は弱いと思います。それは日本の教育の仕方の影響かもしれませんし、企業内教育によるところもあると思いますが、ここは克服せねばならないところだと思います。

 

第2の要件はストラテジーです。アルフレッド・チャンドラーという、ハーバードビジネススクール元教授は、戦略とは何かについて『長期的視野に立って企業の目的と目標を決定すること、およびその目的を達成するために必要な行動オプションの採択と資源配分』と定義しています。

 

もともとストラテジーというのは、軍事用語なのですね。その軍事における戦略論の古典として、欧米の戦略研究者も孫子(紀元前5世紀?~4世紀? )に注目しています。孫子の言っていることを現代語訳すると「実際の戦闘を行う前に廟算(シミュレーション)してみて勝利の確信が得られるのは、勝算が多いからである。逆に、戦闘の前に廟算してみて勝利の確信が得られないというのは、勝算が少ないからである。事前の図上演習の段階で勝算が多い者は実際の戦闘においても勝利し、勝算が少ない者は勝つことができない。ましてや勝算がまったくない者においてはなおさらである。私(孫武)はこの廟算の方法によって分析するので、勝敗は事前に自ずと明らかになるのである。」(『孫子・三十六計』 角川ソフィア文庫)となりますが、 これを読んだときに、まさにビジネススクールでやっていることではないかと思ったのですね。理論的な普遍的な知識を身につけて、環境を分析し、適切に戦略を立てていく。それを大昔からやっている、ということを感じました。

 

第3の要件はフィロソフィーです。フィロソフィー(ギリシア語のphilosophia)の語源は知恵(sophia)を愛する(philein)ことからきています。フィロソフィーとは「魂の世話」だと説いたのはソクラテスですが、ようするに世界はどのようにできているか、物事を知るとはどういうことか、社会はどうあるべきか、人間はどのように生きるべきか、等を問うということですね。学問そのものと言ってもいいと思います。西洋のフィロソフィーの源流はソクラテス(前469~前399)−プラトン(前427~前347)−アリストテレス(前384~前322)にあり、中国のフィロソフィーの源流は孔子(前552~前479)にあると思います。孔子は深遠な哲学ではなく、Ethics(人間としてどう生きるか)を説いた人で、私もいくつか好きな言葉があります。」

 

リーダーはどうあるべきか、という問いには、近年でも多くの人が向き合ってきた。日本でよく知られているのは、経営学者のピーター・ドラッカーだろう。

 

「彼は『マネジメント(経営者)が初めから身につけていなければならない資質は「真摯さ(インテグリティ)」である』(ピーター・ドラッカー 『マネジメント』 ダイヤモンド社)と語っています。インテグリティとは、正直, 誠実, 高潔, 廉直という意味です。私は先達のこれらの話を受けて、仕事に対し真摯に取り組み、他人にも自分にも真摯に向き合うことを意識しています。」

 

ビジネスリーダーに期待すること、いつも学生に伝えていることとはなんだろうか。

 

「学生の皆さんには、自分自身のミッションを持ってほしいと伝えています。どういうビジネスを行い、どのように自分自身を高め、企業や社会に貢献するのかを考えて欲しいのです。そして、人生の喜びを感じられるビジネスに挑戦してほしいと思っています。人生の喜びには、挑戦する喜びや達成、成長、貢献する喜び、人を知り知識を得る喜びなどいろいろあると思います。まずは自分自身がこうした喜びを得られるところから、ビジネスに真摯に取り組む。これが大事だと思います。」

Q&A

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– 社会人の学びの中でも、企業内での学びと外での学びがあると思います。企業の役割、ビジネススクールの役割や大事なポイントはそれぞれどんなものだと考えますか。

 

安渕:企業では、お伝えもしてきた通りこの会社はどういう会社で、何を目指しているのか、理念は何かを伝えることが大事だと思います。そして何を求められるか、行動基準を明確にすることですね。こうしたことを伝えながら、日々の業務で成長を促すことが重要だと思います。

 

高橋:ビジネススクールは様々なカルチャー、経験、発想の人間が同じ意見についてディスカッションをして、多様な意見がぶつかり合うのが特徴ですよね。そうした場であることが大事だと思います。

 

安渕:確かに、私は自分自身がハーバードでMBAを取得したとき、自分の常識が全く通用しない驚きがありましたね。ビジネススクールは世界の多様性を知る機会になると思います。

 

 

– 社会人になる前に身につけたほうがいいと思うことはありますか。

 

高橋:基本的な読み書きそろばんに相当するものであったり、リベラルアーツなど人文科学・社会科学系の学問を身に着けておくことは大事ではないでしょうか。歴史を学ぶときには、日本史か世界史か専攻をいずれかに絞るのではなく、両方ともに必要な知識だと思いますね。自分を振り返ると、社会に出る前は子どもだったなと思います。本当の力は、社会に出て身につくような気がしますね。

 

安渕:私は経済学部出身ですが、学生のうちに意外とやっておいてよかったと思うのは、好きだった心理学や言語学の勉強をしたり、演劇博物館に行ったりと全然関係ないことを学んだことでしょうか。ビジネスに入る前に、将来無駄になるかどうかを考えずに関心ごとを深めていくのは大事だと思います。ビジネスの世界に入ってから、例えば演劇の一種であるインプロビゼーション(即興劇)は、日々の営業活動に役に立ったりしていますし、海外では仕事の話ばかりだと通用しません。趣味の世界も大切でしょうね。

 

 

– 真摯さ(インテグリティ)というものはいつ育まれると思われますか。

 

高橋:私はビジネススクールの研究科長になり、組織の責任者になってから考えるようになりましたね。ビジネスの世界ではなくても、責任ある立場になって、必要なのだと思うようになったのです。そこで考えざるを得なくなったといいますか。そうやって立場が変わると、ドラッカー等の本も、違った意味をもたらしてくれるのだと思います。

 

安渕:私は2006年にGEに入社した時に、インテグリティとコンプライアンスの違いを学びました。コンプライアンスは法律レベルで最低基準、破らないのが当たり前です。インテグリティは、もっと上のレベルで高いことを期待されています。企業が大きくなれば人の目は厳しくなる。明日、新聞に出ても恥ずかしくない状態を常に目指す、それが、結果的に長期的な企業の成長につながると思います。だから、短期的な成功を目指さず、そういう厳しい視点で自分を律していくことで、インテグリティは育まれると思います。

 

高橋:最近も日本の企業の不祥事が多いですよね。法律とかコンプライアンスだけでなく、ビジネスのプライドを大切にしてほしいと思いますね。

 

 

– 企業や組織で成長すること、良いところはどんなところにあると思いますか。

 

安渕:1人1人がやるよりも、総和により、大きな結果が出るということが一つ。そして個人はリスクを取らないで、本来はリスクフリーで仕事に取り組むことができることだと思います。

 

高橋:企業の場合は、目標を達成しなければならないという厳しさがあると思いますね。あとは企業に限らず、組織では肩書きが大事なのではなく、たとえ平社員であってもリーダーシップを持つことが大事でしょうね。

 

安渕:いろんな企業で、リーダーシップとポジションが混同されていると思いますが、リーダーシップはどんな立場の人でも発揮できるものだと思うのです。リーダーになったからリーダーシップを発揮するのではない。その意味で、グローバル企業は誰から言われるのでもなく、自分から動いていくことが求められるのです。そういうことが自由にできる企業が理想ですね。

 

– 企業で働くメリットもある一方で、企業の中には評価というものがあり、個人がリスクをとるということに恐れがある側面もあると思います。特に日本ではその傾向は強いと思いますが、チャレンジングな環境も作るためにはどうすればいいと考えますか。

 

安渕:それは、人事評価がチャレンジを評価することだと思います。国内では何をやったのか、という部分だけを評価するところも多いのでしょうが、多くのグローバル企業は、”WHAT”だけではなく”HOW”も見ます。

 

あとは、評価者をきちんと評価するということだと思いますね。日本の管理者の多くは、評価側に回った瞬間に裁判官になってしまう気がします。例えばメンバーが成長していくために、あなたは何をしたの?組織のために何をしたの?ということをきちんと問う必要がありますし、そうすれば自然と強い組織になっていく気がします。

 

高橋:先ほど紹介しませんでしたが、孔子が言っている「君子はこれを己に求め、小人はこれを人に求む」成功すると自分のおかげとして、失敗すると部下のせいにする、これは小人であるという、先人の言葉には現代にも通じるものがありますね。

 

安渕:組織を作っていく上で、違った個性がいる方が結果的に強くなると思います。よくある間違いは、自分と似ている人ばかりを高く評価してしまうということ。例えば細部に目が届く人は、細部に目が届く人を高く評価し、全体像を捕らえることを評価しない。それに、メンバーのうち突出した能力を評価するよりも、平均的な能力を持った人ばかりを採用してしまうということもあります。でも、全員がゴールキーパーではサッカーの試合も勝てないのと同じように、様々な人がいる方が組織は強くなると思います。

 

高橋:日本の大企業は、新入社員を兵隊として扱ってしまうので、課長になってもリーダーになりにくいのではないでしょうか。新入社員のうちからきちんとした教育をしないと、急にリーダーに育てるのは難しいのではないかと思います。

 

– 安渕社長は、社内でリバースメンタリングというものを取り入れていると伺いました。どういうものかもう少し詳しくうかがっていいでしょうか。

 

安渕:違う年代から新たな学びを得るために、組織的に行なっているのがリバースメンタリングです。ある一定の年齢を超えると、テクノロジーのことなど却って若い人から教わることも多い。例えば私は、20代の半ばの理科系デジタルネイティブの人に、一日自分の仕事に同行してもらい、GAPを指摘してもらったりしました。その世代から見ると、やる意味が理解できないことや、実は活用できていないツールがあったりするのです。指摘されることで、気づきがあったりしますね。

 

– 人材の社会的流動性と人がどう学んでいくか、企業がどう強くあり続けるかと言うパズルが合わなくなっていると思います。産業構造の転換、人の社会流動性、人生100年時代などと言われていますが、このような時代のキャリアと成長についてお考えはありますか。

 

安渕:成長の支援していく上で大事にしているのは、社員のエンプロイアビリティ(雇用され得る力)を上げることです。この会社で働くことで、社員の市場価値を高めていけると伝えている。つまり、ある程度人材が流動することを前提においているのですね。そのために、ジョブディスクリプション(職務の遂行内容・難易度・求められるスキルの定義)を明確にしておくのです。

ビジネスは大きくなることも、小さくなることもありますから、一つの会社でキャリアパスを描けないかもしれませんよね。優秀な社員がどこか別の会社に行った場合、実はその人は今どうしているのか、追いかけていて、タイミングがくれば戻ってくることもできるようにしています。この流動性のある状態を、私はブロードウェイ型だと捉えています。劇団型では、いつまでたっても自分の望む役を得ることが難しい。ブロードウェイ型が、これからの会社に求められることだと思います。

 

 

– 学習指導要領の中でメタ認知ということばが用いられ、己とは何かとか、何のためにこれをやるのかとか自己認識についての項目があります。企業内ではどのように実践しているのでしょうか。

 

安渕:さっき言っていた、セルフアウェアネスのことですね。自分も客観視できるようになることですが、何かをしている自分がいた時に、十分やっているのか、手を抜いているのではないかともう一人の自分が問いかけるような考え方を身につける。そのためには周りからも定期的にフィードバックをもらって、自分の言動が相手にどう受け止められているのかを学んだりしています。人間の本質、性格は変えられなくても、行動は変えられる、なので行動を変えることでリーダーとしての質を高めていこうという取り組みをしています。

 

 

– 最後に、人一生の育ちを考える上で、一番大切だと思うことはどんなことでしょうか。

 

安渕:自分自身、リーダー自身が学ぶ姿を見せることではないでしょうか。子どもに勉強しなさいといっても、なかなかやりませんが、親が自分でテレビを消して、本を読んだり、自らキープラーニングしている姿を見せていけば、自ずと子どももやるようになる。それと同じだと思います。

 

高橋:魂を込めた教育や指導だと思いますね。先日テレビで、俳優の吉田鋼太郎さんの演技指導を見ましたが、怒鳴りながらやっている。でも、前提に愛情があるのがわかる。だから俳優も伸びるのだと思います。でもそのためには叱られる側にも、それを受け止められる力が必要でしょうね。

未来教育会議の所感

kumahira

成人が学び続ける際に、企業や組織が果たす役割が大きいことを改めて実感した。仕事には2つの側面がある。ひとつは、業績等、仕事を通して成果を出すこと。もうひとつは、個人の成長だ。業績は、組織全体の目的でもあるため、誰もが強く意識し易いが、個人の成長については、本人、上長、会社が明確な意志を持つ必要があると感じた。雇用の流動化が進み、社会全体で人材の適材適所を目指す時代に、成長は自己責任であり、仕事でのチャレンジは自己成長に向かう実践学習の機会と捉えるとよいのではないかと考える。上長には、客観的自己認識を持ち、他者を正しく評価し、育成の機会を提供する責任を持つことを期待したい。会社や組織はこれを仕組みとして支えることで、個人の成長が促進される。個人は、仕事経験だけでは学べないことを研修やスクールなどの手法を活用して学ぶ。キャリア開発に責任を持つ個人にとって、学び直しを許される社会であることも大切だ。変化する時代の中で、経営幹部やリーダーの学び続ける真摯な姿勢が、組織や社会を幸せにすることも、お二人に教えていただいた。私も、学び成長することを楽しむ大人であり続けたい。

 

未来教育会議実行委員会 熊平美香