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  • 実行委員会の活動
  • 2016.12.27

『未来シナリオ』ができるまで①最新の動向と未来への展望をエキスパートに聴く!

この記事シリーズ「『未来シナリオ』ができるまで」では、2015年度「21世紀未来企業プロジェクト」にて制作された『2030年の社会・企業の未来シナリオ』がどんなプロセスでつくられたのかをご紹介していきます。

ICTが起業や仕事、人に与えるインパクト

2015年11月6日(金)、東京大学駒場キャンパス21KOMCEE館にて、2030年の未来の企業の姿を描き出す「21世紀未来企業プロジェクト」の第2回ワークショップが行われました。約40名の社会人・学生参加者の前で、3名のスピーカーが登壇。未来の社会と企業に影響を及ぼす重要なテーマについてプレゼンテーションが展開されました。

 

湯川鶴章さん(ITジャーナリスト/The Wave湯川塾・塾長)

 

 

◆ご存知ですか? “シンギュラリティ”という言葉

 

本日は、「人工知能は人間を超えるのか」「地球は21世紀中にほろびるんじゃないか」といった、みなさんが未来の企業に抱く疑問・不安について考えていきたいと思います。

 

“シンギュラリティ”という言葉をご存知でしょうか? 日本語では、「技術的特異点」といい、強い人工知能や人間の知能増幅が可能となったときに出現するといわれています。これについて、シリコンバレーでは、「テクノロジーが人間を超える」と定義づけられています。「全人類の知能を、1,000ドル程度のコンピュータが超えてしまう」と。

 

人工知能の父マービン・ミンスキーさんは、「思考と感情はコピーできる」といっています。人間とロボットの境目がない、といわれ始めていますね。遺伝子は書き換え自由、老化は遅らせることが可能などといわれています。1年間に平均寿命が1年のびる、とさえいわれているんです。やがてロボットが感情をもち、結婚するようになる、ともいわれています。

 

気になるのは、“シンギュラリティ”の進化が指数関数的である、ということ。例えば、以前と比べてスマホの普及が早くなったと思いませんか? ITの専門家でさえ、想定できなかったことがいま起きているんです。夢のような話だったグーグル社の自動走行車も、いまとなってはほぼ完成していますよね。そしていま、人工知能が急速に発達しています。東京大学准教授の松尾豊さんによれば、「人工知能には、冬の時代が何回もあった。このあとに、大きな山があるとは思えない」とのこと。

 

◆人間の仕事はなくなるのでしょうか

 

最近、ニューロンとシナプスを電子回路で再現したニューラルネットワークが提案されました。点や線により顔を認識することができる、という話です。2012年、グーグル社が行った実験で、YouTubeはスチール画像による顔認識で「猫」という概念つかんだ。そんなエピソードもあります。人間の脳のなかで真似るのが難しいのは、何を考えているのかわからない1~2歳の脳だといわれています。赤ちゃんは、なんでも口のなかに入れて、ものの概念をつかみ、それから言葉を教わります。生まれて1年半くらいは、概念の獲得に費やされるんです。それが、コンピュータで再現できてしまったわけですね。

 

グーグル社では、ものだけでなく、行動も認識しようということになりました。それが、レーシングカーに学習させる例です。「速く走れ」「衝突するな」「あとは自分で学習しろ」と。それで、どんどん賢くなっていきます。近い未来、信号はいりません。自動走行車が自由に走る時代がくるのです。世界最先端のシミュレーターを、東京大学発のベンチャー企業が行っています。

 

ぼくは、30人の研究者(人工知能の)を取材しました。そこからわかったのは、研究者たちは“シンギュラリティ”がすぐにくるとは思っていない、ということ。30年先のこと考えるより、近未来を考えたほうがいいという意見をもっています。一方で、「ヒトとカネが集まっており、このサイエンスが急速に高まっているのは確実」ということは認められています。

 

そうなると、「仕事がなくなるのでは?」という心配があります。スキルのレベルが下の人、また、政治力のない人からいなくなりそうです。人間に残される仕事は、クリエイティビティ・マネジメント・ホスピタリティだと思います。一方で、これらさえもなくなるという説があります。音楽診断AI、工場長AI、接客業ロボット……。こういったものが出始めたら、いずれなくなってしまうでしょう。

 

人間が労働から開放される、という考え方があります。「お金よりもやりがい」という価値観が増えることも予想されます。そうすると、資本主義は自然死するでしょう。すべての人に対し、無条件に最低限の生活費が給付される制度「ベーシックインカム」になるわけです。“シンギュラリティ”が進化すれば、富が増えるのは間違いありません。問題は、その分配。その議論は、まだなされていません。仕事をしなくて許されるのが“ユートピア”だと感じる人もいますが、そのまえに“デストピア”がくる可能性も高いでしょう。

 

◆「お金儲け」から「やりがい」へ……?

 

人工知能は、本当に急速に進化し始めました。これが暗い話かどうか判断するのは、見方次第です。仕事は「お金を儲ける」から「やりがいあること」へ。必需品は無料か低価格になるかもしれません。「無理に経済成長する必要がなくなるから、環境にも外国にもやさしくできる」という人もいれば、「いやいや、人間の欲は無限でしょう」という人も。欠乏の心は、恐れや不安をもたらします。「いじめ、炎上」「ハングリー精神」「明日のために今日をいきる」などといった価値観はやがて、「今日を生きてこそ明日がくる」「異なる意見に寛容」「ハングリー精神よりパフォーマンス」といった価値観に変わるでしょう。そうすると、二極化が進むはずです。欠乏者同士はいがみ合い、満たされた人はどんどん幸せになるでしょう。頭のいい欠乏者が権力をもてば、対立が生まれ、やがて破滅に向かうでしょう。つまり、心が満たされている必要があるのです。

 

日本は、世界にもっともいい影響を与えている国だといわれています。2020年オリンピックの開催が、東京に決まった理由をご存知ですか? 「電車が時間通り到着する」「落とし物が警察に届く」「心をこめておもてなしする」「計画どおりに建物をつくる」など、日本人にとってはあたり前のことばかり。日本人は、わたしたちが考えている以上に好かれているし、尊敬されています。戦前の日本は、軍事力で尊敬されようとしていました。戦後の日本は、経済力で尊敬されようとしていました。21世紀の日本は、心の力で尊敬されているのです。いま、価値観が変わってきています。仏教好きなスティーブジョブズ氏は、かつてインタビュー映像で、「目に見える世界を超越した世界がある」と話しています。物事の秩序が崩壊しようとするとき、何かが生まれるのだといいます。製品に魂を入れろ、ということです。禅やヨガをする人が増えていますね。モノ、サービスに和の心を入れましょう。

 

最後に、まとめです。富が増え続ける時代、仕事なくなるのはいいことでしょうか? わるいことでしょうか? 何世紀もの欠乏の時代から満たされた時代へ向かうなか、豊かな心へ移行できるのでしょうか? もっと直近の話をすれば、人工知能とデータは車の両輪となっていきます。データをもつところが強くなる時代がきて、そのあと、データをもっていないところが強くなる時代がくるでしょう。個人がデータを管理する時代となるのです。個人的には、どう生きるべきでしょうか? 幕末の志士たちは商才もあったが、剣の達人でもありました。満たされた心をもちながらお金儲けもがんばる、ということが望ましいのではないでしょうか。

21世紀型ビジネスとは何か —持続可能性と事業の両立—

伊藤征慶さん(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 ヘッド オブ コミュニケーション)

 

 

◆ユニリーバの原点とは?

 

本日は、「小さな積み重ねが大きな力に」というテーマで、ユニリーバがどんな“サステナビリティ”を実践している、についてお話しします。わたしはブランドマーケティングに興味があり、大学卒業後すぐユニリーバに勤め始めました。そして、いまから10年前、ターニングポイントを迎えました。家族でプーケットに訪れたとき、津波に遭ったのです。それから、わたしが「社会問題の解決にかかわりたい」と思ったのと、会社が「“サステナビリティ”に力を入れる」と決めたのとが、ちょうど同じタイミングとなりました。

 

ユニリーバは、世界190カ国でビジネスを展開しており、20億人以上の人に製品を使っていただいています。始まりは、石けんでした。1884年、不衛生が原因で死者が出る時代のこと。当時、石けんはグラム単位で高価で売られていて、一般人の手に入りませんでした。そんな背景のもと、リーバブラザーズは、中長期で信頼を得るためのブランディングとして、「箱に入れて販売する」というユニークな方法をとり、大成功を収めたのです。そして、その利益で、自分の工場で働く人に家を与えたり、学校や病院つくったりしていました。一方、当時、栄養不足で苦しんでいたオランダにあったのが、マーガリンユニという会社です。バターの代用品として、マーガリンを販売していました。その“ユニ”と“リーバ”が一緒になり、ユニリーバができたのです。栄養問題や衛生問題を考えていた世の中は、いま、災害問題や格差問題などを抱え、より複雑化しています。

 

当社では、2010年に社のビジョンを発表する際、一般社員に向けて「世界がいま、どうなっているのか」をわかりやすく説明するための動画を作成しました。ビジョンは、「環境負担を削減しつつ、ビジネス規模を2倍に、さらに社会へ貢献する」というものでした。目標として掲げたのは、持続可能な生活を当たり前にすること。創設当初に掲げていた、「清潔な生活を当たり前にする」というビジョンと一緒です。では、どうやって? というのが、「ユニリーバ・サステナブル・プラン」。これは、「健やかな暮らし」「環境負荷の削減」「経済発展」という3つの柱と、さらに細分化された約50の内容でできています。詳しくはホームページをご覧ください。10億人以上に健やかな暮らしの支援をし、製品のライフサイクルから環境負荷を2分の1に減らす、原材料として使用する農作物を100%持続可能なものを調達する、といった内容です。実情は、年間200万人以上の子どもが、下痢や肺炎など予防可能な病気により5歳未満で亡くなっており、20億人以上が安全な水への十分なアクセスがなく、小学生の5人に1人がダイエットをしている世の中です。自分を美しいと思う女性は、わずか4%。見た目が原因でやりたいことやめてしまう、という女性が数多くいます。

 

◆“サステナビリティ”支える3本柱

 

1本目の柱、「健やかな暮らし」については、立ち上げた2010年に5,200万人、2014年には約4億人の支援に達しています。わたしたちが何をしているのかをご紹介します。まず、「ライフボーイ」という殺菌用の石けんがあります。シェアの大きい商品です。インドなどでは、この石けんで手洗いを啓発しています。「ピュアイット」という浄水器は、ガスや電気を使用せずにきれいな水が出せる商品です。この商品を用い、水が原因で病気を発症するフィリピンなどの国で、水に関する取り組みを行っています。そのほか、「シグナル」という歯みがきを使用したプロジェクト、「ダウ」を使用した少女たちが自信をもてるプロジェクトなどを開催。後者には、世界70カ国の少女が参加しました。日本においては、ガールスカウトと一緒になって「ダウフリービー」というプロジェクトを今年開催。ポストイットに自分の特徴を書き、シャッフルしてだれなのかを探して当てるゲームをしました。今後、1万7,000人の少女にリーチすることを目標としています。ここでご紹介した4ブランドは、とくに成長率が高いんですよ。

 

2本目の柱、「環境負荷の削減」について。世の中は、気候変動が加速し、食糧が不足し、地球1.5個分の資源が消費されるなか、世界人口は70億人に達し、水資源が不足しています。わたしたちがしていることの一つ、工場のCO2排出の削減は、2014年時点で約40%削減できている状況です。2015年1月末までで、自社工場の埋め立て廃棄物ゼロを達成しています。そういったことで年間の廃棄物は14万トン、コストは280億円削減できています。「コンフォート」というブランドの液体洗剤を使用することで水を30リットル、シャンプーなどを詰め替え製品にすることでプラスチックを年間34万トン削減できています。結果として、廃棄物はマイナス12%、水はマイナス2%、温室効果ガスは残念ながらプラス4%という進捗状況であります。

 

3本目の柱、「持続可能な調達」については、原材料の50%を農業・林業由来のものにしています。2050年までに90億人になるといわれている人口。そうすると、農業による生産量を70%増やす必要があります。例えば、パームオイルや紅茶など、持続可能な農作物を調達するようにしています。2010年14%、2014年55%と、よい進捗状況です。社内でも、“サステナビリティ”と成長を両立させる新しいビジネスモデルと理解しています。これをわたしたちは、両立できると考えているのです。

社会的インパクトとは何か

鵜尾雅隆さん(株式会社ファンドレックス 代表取締役)

 

 

◆“社会的インパクト”が注目されている理由

 

こんにちは! 鵜尾です。

本日は、 “社会的インパクト”についてお話しします。これからのグローバル社会について考えたとき、NPOや社会事業家をはじめとした“ソーシャルセクター”のどういった役割を果たすのか注目が集まります。そのつなぎとしてキーワードとなるのが“社会的インパクト”です。

 

震災が起こると、その地域には変化が訪れます。かつて大地震のあった神戸には、130万人のボランティアが来て、NPOの活動が変わり、しっかりとした活動をする人が増えました。でも、それにしては流れがあまりよくありません。それで、ぼくは“ソーシャルセクター”専門のNPOを立ち上げました。社会のお金の流れを変えるべく、“社会的インパクト”を与えるプレイヤーを育てようと思ったのです。そこに向けての寄付・社会的投資の拡大を企てました。

 

具体的には、気づきの場として“社会的インパクト”の成功事例が集まるカンファレンスを開催したり、“ファンドレイジング”の力をもつ「認定ファンドレイザー」の資格検定を行ったりといった活動です。“ファンドレイジング”とは、共感を得て支援を得るということ。お金を集めるスキルの一つです。いまでは、1,900名くらいが研修を受けています。また、世界中の100以上の企業などが起こしたイノベーションを分析してまとめたものを出版したり、“社会的インパクト”を管理するクラウドサービスを日本語版でリリースしたりするなど、さまざまなソリューションを提供しています。

 

なぜ、いま“社会的インパクト”なのでしょうか? 社会に対していいことをする、いわゆる“社会貢献”を見ていこうとする動きがあるからです。例えば、東日本大震災のとき、100億円を東北支援金とした企業がありました。いまの流れでは、この100億円がどんな変化を生み出したか、という成果を社会は見ようしています。最適な変化を生み出すようなことにお金を使いましょう、というわけです。ビジネスだけでなく社会事業もきちんと評価されるべき、経済的リターンだけでなく社会的リターンも必要だ、という流れになってきています。

 

いま、「社会の役に立ちたい人」が7割いる時代です。しかしながら、実際に行動できている人は2〜3割。感覚的にいうと、この差は5,000万人ほどもあるのです。社会の役に立ちたいけどできていない、という人がいっぱいいるんですね。とはいえ、募金箱にお金を入れるだけで「やったー」と思う人なかなかいません。大事なのは“ストラテジックフィラソロフィー”、つまり戦略的に社会貢献をすること。ただいいことをするだけでなく、どれだけ成果を生み出せているか、まで考えることが求められているのです。

 

◆“社会的インパクト”の生み出し方

 

ところで、“クリエイティブ”と“イノベイティブ”の本質的な違いをご存知でしょうか。エジソンを例に挙げれば、電気の仕組みをつくった人は別にいて、電球というかたちにしたのがエジソン。彼は“イノベイティブ”というわけです。そして、さらにもう一人、お金を出してこの電球を広めた人がいます。これには重要な意味があります。

 

ここで、社会的価値を可視化することについて、考えてみましょう。社会的リターンは、どうやって測ればいいのでしょうか。例えば、障害者の自立を支援するために3カ月間の職業訓練プログラムを年3回開催したとします。この場合、アウトプット(結果)・アウトカム(成果)・インパクト(波及効果)はそれぞれ何だと思いますか? アウトプットはそのプログラムに参加した人数など、アウトカムは参加した結果得た仕事の有無など、インパクトは仕事に就いた結果的に納税者が増えることなど、と考えられます。よい“社会的インパクト”を生むためには、始める前にこういった仮説が立てられるとよいのです。ところが、整理していない人が多い実情です。

 

“社会的インパクト”は、どのビジネスモデルでも生み出せると思っています。その手法は、さまざまなものがあるのです。例えば、サービスを提供する、商品を開発する、ノウハウを伝える、広報を発信する、など。そのなかで、“ソーシャルセクター”とは何者なのでしょうか。「未来の消費者だ」といった方がいます。例えば、困った人がいるって聞くとだれもが「あっ」と一瞬思うけれど動きません。ところが、“ソーシャルセクター”の人たちは踏み出します。これが、5年後10年後には、だれもが動くようになっていく、と考えれば、確かに未来の消費者像を伝えてくれる層の人たちだといえますね。一方、「最近の若い人は、すぐ社会貢献とかいう」といった方がいます。かつて、社会全体が飢えていた、ハングリーな時代がありました。ハングリーの定義が変わってきているわけですね。アメリカの就職ランキングには、NPOが10位中3つ入っています。少しずつ世の中が変わってきているのです。

 

“社会的インパクト”を創造するサイクルは、「何を創造するのか」→「どの課題に取り組むのか」→「どのような手順をふむのか」→「成功はどう測るのか」→「インパクトを大きくするにはどうすればいいのか」。注目されている動きとして、「ソーシャル・インパクト・ボンド」という事例があります。企業や行政、NPOが連携して社会課題を解決する仕組みです。例えば、「若い人が犯罪を犯して再犯する」という問題について、再犯率を下げるプログラムを行った例があります。行政が地域のNPOに委託して、出所した人への再犯予防プログラムを実施。再犯率が減ることでプラスのリターンが生じる仕組みです。こうした流れが、日本にも来始めています。

 

現代社会においては、課題解決にハングリーな人たちが多く、7割の人たちが「役に立ちたい」と考えています。しかしながら、それをつなぐ動きがありません。時代を変える社会的イノベーションを生むためにはどうすればいいのでしょうか。企業単体、行政単体ではダメだと思います。立場の枠を越えて、連携して一緒にやらないと実現できないのではないでしょうか。キーとなるのは、「共感」と「信頼」です。それらで物事が動いて行くんです。それらがあれば、一人ひとりが“社会的インパクト”を生み出せる時代なのだと思います。組織と組織の境界線をつなぐ「バウンダリースパナー路線」、スピンオフしてチャレンジする「起業家路線」、知見やお金で投資する「投資家路線」。この3つの路線で、“社会的インパクト”が生み出せるようになったら、素敵なのではないでしょうか。