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  • 未来教育リポート
  • 2015.12.21

100%アクティブ・ラーニングを提供する「未来の大学」

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想像してみてください。世界中から集まったクラスメイトと一緒に、4年間、世界の7つの国際都市に住みながら、現地の企業、行政機関、NPO等でのインターンをする学生生活を。授業は午前中の2コマだけ。午後は事前課題と自由時間で、その国の暮らし、文化を体感し、多様性を身につけることができる学生生活を。これは、Minerva Schools at KGI(以下ミネルバ大学)の生徒が経験する日常です。

ミネルバ大学は2014年9月にサンフランシスコで開校した全寮制の4年制総合大学です。1年目の授業は約30-40%が最新のITプラットフォームを活用した反転授業形式のクラス、残りは現地の行政機関や企業、NPO等でのプロジェクト学習やインターンで行われます。カリキュラム設計を担当したStephen Kosslyn教授は前ハーバード大学社会科学学部長で、認知科学と脳科学の分野で30年以上の研究実績があります。Kosslyn 教授は、カリキュラム設計にあたり、学部卒業生に求められる技能は、特定分野の専門知識ではなく、むしろ、その学生が将来どんな職業に就いても、活躍できる「学び方」だと考えました。そして、その4つの技能である、クリティカル思考、クリエイティブ思考、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力は知識のインプットではなく、継続的な実践・フィードバックによる鍛錬でのみ習得できるとの考えに基づき、生徒がこれらの技能を効果的に習得できる学習ツールを開発しました。

 

 

 

 

Active Learning Form という新しい学習ツール

ミネルバ大学での授業は、全て18人以下のセミナー形式で行われます。生徒は事前課題を提出後に授業に臨みますが、授業の進行は従来の大学とは大きく異なります。

授業はActive Learning Formと呼ばれるオンラインプラットフォームを通じて行われます。この授業には、以下の特徴があります。

・ 教師はファシリテーションに徹し、10分以上話していけない
・ リアルのクラスでできる作業をより効率的に実施できる
・ 全ての授業が記録され、何度でも見返すことができる
・ 教師と生徒の関係をより緊密にできる

授業は議論を喚起するような質問から始まり…

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即座に全ての生徒がどの主張を選択したか共有され…

Pool

 

スムーズにディベートに移行できます。

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少人数のグループワークも時間をロスすることなく、作業に移れます。

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さらに、教師は、どの生徒がどれだけ発言しているか、瞬時に把握でき、次に当てるべき生徒を迷わず選べるため、全ての生徒が参加する授業を提供できます。

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(教師は赤・黄・緑で色分けされた各生徒の参加状況(発言量)を瞬時に把握できる)

 

全ての授業が録画されており、生徒一人一人に各授業での技能レベルをフィードバックすることができます。

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(生徒の習熟度を教師が採点している画面)

Active Learning Formは従来のクラスではできなかった一人一人の生徒の技能レベルや特徴を教師が把握し、記録された情報に基づき、教師間で共有することができます。 これにより、教師は毎回の授業で生徒により適切な質問を出すことができるのです。

7つの国際都市で生活し、異文化を体感する

生徒達は事前学習、オンライン授業だけでなく、獲得した技能を実践し、体得する機会を与えられます。滞在する各都市で、様々な提携団体とのプロジェクト学習や識者へのインタビュー、インターンが行われます。サンフランシスコでは、マイクロファイナンスの会社や人権擁護団体のアクティビスト、自然科学博物館やサンフランシスコ市長室、ベンチャー・キャピタル等でのワークショップを経験し、1年生の最終プロジェクト(期末試験に代わるもの)ではWikipediaの新しいサービスを提案するというコンペティションが行われ、実際に同社の重役の前で成果発表を行いました。こうした授業は2年生以後、各滞在都市(ベルリン・ブエノスアイレス・ソウル・バンガロール・イスタンブール・ロンドン)で実施され、生徒はプロジェクトに加え、それぞれの地域での働き方や文化の違いに柔軟に対応しながら成果を出す方法を体得します。

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(Wikipediaでのプレゼンテーションの様子)

 

多様性を確保するための仕組み

ミネルバ大学は学生が4つの技能を獲得する上で、国際性と多様性のある環境を重視しています。これは、ある環境では有効な方法が別の環境では全く逆効果であるような体験をすること、異なる思想の下で育った者同士が同じ寮に住み、授業だけでなく生活を共にすることで、お互いの違いを乗り越える努力を継続する力を身につけられる、という考えに基づいています。

ミネルバ大学は、多様性を確保するために、世界中の才能ある学生がチャンスを得られるような運営方針と入学審査方法を採用しました。

1. キャンパスを持たず、既存の最先端の施設を持つ機関と提携し、「学生に最良の機会」を提供する
2. 財務能力に応じた授業料免除制度を提供する
3. リサーチを重視し、授業を行わないテニュアの教員を雇わない
4. 入学審査を無料にし、SATや事前課題エッセイを採用しない
5. 一切の枠(国籍、性別、人種他)を廃止

豪華なキャンパスや、学生の学びとは直接関係の無い分野への投資を行わないことで、学校運営費を大幅に圧縮、学費を主な米国の私立大学の1/4程度である10,000ドル(約120万円)を実現しました。この結果、生徒の能力を引き上げることに情熱のある教員への投資と提携機関への投資を集中することができました。

入学審査は厳しく、2015年は世界160ヶ国から11,000名以上の受験者がおり、220名が合格、111名の第2期生が入学しましたが、これらの施策の結果、一期生と合わせた全生徒の78%が米国籍以外の学生で、30ヶ国の出身という多様性を実現できました。

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(ミネルバ大学1期生のポートレイト)

どんな学生が学んでいるのか?

ミネルバ大学で学ぶ学生は、高校3年間の学力が安定して高いだけでなく、素晴らしい課外活動の実績を持つ人達が少なくありません。UWC(United World College)インド校で学んだAlishaはジュエリーのデザイナーという特技を活かし、高校時代にインドで女性と子供の経済的自立のために社会事業を起業しています。ミネルバ大学で学ぶ傍ら、自分の事業を世界中に拡げたい、と考えています

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(Alishaが高校時代に創業したSeema Circle)

中国福建省出身のRoujiaは7歳からプログラミングを始め、中国では情報処理オリッピックで4年連続優勝した経験を持っています。ミネルバ大学にきた理由は、「世界7ヶ所に住んで、いろいろな仕事を経験できた」4年後を想像した時、既に合格していた既存のトップ大学に行く選択肢は簡単に消せたそうです。「中国では親は、子供の教育の為なら、何でもする。でも、4年後、ワシントンでスーツを着て就職活動する自分を想像できなかった。親の負担を考えたら、投資対効果は歴然としていました。」と言っています。

ミネルバ大学の在籍者の約20%は国際バカロレア取得者ですが、地元の通信制の高校を出た生徒や、米国の片田舎の小さなコミュニティから出たことのない生徒もいます。カリフォルニア州出身のGabriellaは中学2年生から、学校での画一的な教育に満足できず、通信制の学校に通いながら、親の事業の手伝いをして高校時代を過ごした経験を持っています。

生徒達に共通して言えるのは、自分達が受けたい教育について、しっかりとした考えを持っていること、大変な努力家であり、個性を持ちながら、お互いを認め合う謙虚さを持ち合わせていることです。中国出身で北京第4高校特進コースに在籍し、ハーバード大学の模擬国連のベストスピーカー賞を受賞した経験のあるYigeは、「クラスメイトは、時々異常じゃないか、と思うくらい親切なんです。私は高校時代まで、“文化の壁は越えられる”、という考えには懐疑的でしたが、ミネルバに来て、お互いを理解し合うためには、努力し続ける姿勢が鍵になることをクラスメイト達から教わりました」と言っています。

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(インスピレーションは、街に出て文化に触れることで触発されるーYige)

 

 

キャリアではなくプロフェッショナルとしての成長を

ミネルバ大学の学生は、3−4年生の多くの時間を自分の卒業プロジェクトに費やします。キャリア・メンターは、学生に、「どこに就職したいか?」ではなく、「どのような問題を解決したいのか?」を問い、その目的を実現するために、学生が、どのような職業経験を積むべきか、という観点から、アドバイスを与えます。どのような職業に就いても、リーダーとしての役割を果たせるよう、様々なパブリックスピーキングの機会や地域コミュニティへの貢献を始めとする活動を紹介し、学生がそれらのイベントに積極的に参画することを奨励します。ミネルバ大学の1期生はこの夏、アショカ財団、MITメディアラボ、UBERといった各分野の最先端の研究機関、NPOや企業でインターンを行いました。

また、ミネルバ大学は、1期生の卒業後の進路について、アイビー・リーグの卒業生が希望する進路先を含む、様々な機関からアイドバイザーとして参画したい旨の打診を受けています。ミネルバ大学の教育方針に賛同する機関による人材獲得競争は今後、さらに加速することが見込まれます

日本の大学教育への示唆

筆者は教育関係者ではなく、日系大手企業、外資系経営コンサルティング会社、外資系製造業に20年近く勤務し、企業の現場で管理職として人材育成を行なってきました。キャリアの半ばで経験したケンブリッジ大学での少人数セミナー形式のアクティブ・ラーニング、プロジェクト学習を重視する教育環境に感銘を受け、いつか日本にもこのような教育環境を実現できれば、と考えながらも、日々の業務に忙殺されている時にミネルバ大学を知り、日本での認知活動に関わることになりました。
ミネルバ大学は、21世紀の社会に合った実学重視のカリキュラムのあり方、効率的な大学運営方法、グローバルレベルで起きている人材獲得競争といった様々な観点で、日本の大学が参考にできる点が多くあります。

“93%の学部卒業生の雇用主が、学生がどんな学位を取得しているかよりも、複雑な問題をクリアできる素養である、クリティカル思考力と効果的なコミュニケーションを駆使し、人々を動かすことができる技能の方が重要だと考えている”という米国での調査結果は、日本においても、的外れではない、と筆者は感じています。また、変化が早く、見通しを立てにくい国際社会の中で、独特の文化を発信していくこと、より緊密に繋がった周辺国や人の移動の低コスト化による異文化の相互理解の促進は、日本にとって「今、そこにある重要課題」です。 本記事が様々な教育分野の皆様の参考になれば幸いです。

 

最後に、この記事を投稿することを勧めて頂きました、未来教育会議の熊平代表に感謝申し上げます。

本記事の内容に関するお問い合わせは、Minerva Schools日本連絡事務所 山本宛(hideki@minerva.kgi.edu)までお願いします。
参考リンク)
Minerva Schools Japan –Facebook page (日本におけるMinerva Schoolsの認知活動について発信しています)
Minerva Founding Class (一期生の学校紹介)
Active Learning Formについての解説動画
Stephen Kosslyn 教授によるMinerva Schoolの学習法の解説