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  • 未来教育リポート
  • 2015.09.01

米倉誠一郎氏が語る「教育とイノベーション」【Camp 21c for Teachers 講義リポート】

8月10日(月)~ 8月12日(水)の2泊3日、山梨県にある保健農園ホテル・フフ山梨にて開催された「Camp 21c for Teachers ~先生が21世紀スキルを楽しく体験的に学ぶプログラム~」。この記事では、4回にわたってプログラムのリポートをお届けしています。

 

第1回目のレポートはこちら→【Camp 21c for Teachers 1日目リポート】

 

第2回目となる今回は、1日目の午前中に行われた、米倉誠一郎氏(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)による講義の様子をご紹介します。米倉氏が語る、教育におけるイノベーションとは…?

 

PROFILE——————————————————————–

米倉 誠一郎(よねくら せいいちろう)

日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授

1953年東京生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。

同大学大学院社会学研究科修士課程修了。

ハーバード大学歴史学博士号取得(PhD.)。

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今、日本がマズイ! なぜなら…

こんにちは。米倉誠一郎です。

 

今日、私がここへ来たのは、未来を諦めない人たちに“バッチ”をわたすためです。“バッチ”を受け取ったら、どんどん未来のためになることをやっていきましょう。教師とは、やはりその“バッチ”をもつ人たちだと思うんです。最近、やっとわかったことなのですが。

 

この講演では、イノベーションの話をします。同時に、「日本はやはりマズイ」という話をしなくてはなりません。

 

まず、日本のGDP(国内総生産)は、かつてアメリカに次いで2位と言われていたのですが、中国に抜かれ3位となってしまいました。ですが、GDPの総額というのは、人口の差にも左右されるもの。日本の人口が1億2,000万人、中国の人口が14億人だとすると、仕方がないとも考えられます。

 

実は、総額よりも重要なのは、“一人あたりのGDP”なのです。1980年に17位だった日本は、1995年に3位まで上がりました。当時の1位は、ルクセンブルク。人口たったの42万人(新宿区の人口くらい)の、高度な経済に特化した小さな国です。2位はスイスで、人口790万人。東京都より小さい国であるにもかかわらず、金融や製薬、精密機械、さらには観光にも強い、という国です。その2か国に次いで3位だった日本は、本当にすごいと思います。あの頃、パナソニックやトヨタ、日産など、世界的に日本の製品が強かったのです。それが、今や27位。もし、私たちが去年より今年、今年より来年…と付加価値をつけ続けていれば、こんなことにならなかったのではないでしょうか。一人ひとりがこうした事実を知り、意識をもってがんばらないといけませんね。

今やることが、30年後の未来を変える!?

もう一つ重要なのは、日本が教育、つまり“人”に投資していないということです。1990年、日本の税収は58兆円あり、社会保障費は11兆円でした。今年は税収54兆円、社会保障費31兆円。税収はほとんど変わらないのに、社会保障費だけ伸びています。一方、GDP比の公教育支出はOECD(経済開発協力機構)諸国のなかで、最低水準と言われています。

 

かつて、日本は教育にとてもお金をかけていました。イギリス・アメリカ・日本の人口に占める学生比率を見ると、1870年にわずか4%だった日本が、1910年にイギリスを抜き、1930年にアメリカを抜いたのです。この頃の投資が、1970年代までの日本の奇跡的成長を支えたのでしょう。当時、「今、投資しなければ、30年後の新しい世界に対応できない」と考えていたからです。

 

ところで、みなさんは選挙に行っていますか? 年代別投票率を見ると、80代は2人に1人行っています。20代は、3人に1人しか行っていません。「行っても変わらない」という若者もいますが、変わるんです。「自分たちの手で変えよう」と考える人が得をします。

良いと思うものが売れない理由

日本は今、稼ぐ力が落ちています。一人あたりのGDPのランキングが、総額よりグッと落ちるのは、労働生産性が関係しています。働いてもたいした成果が出ないのです。また、悲しいことに自殺率のランキングで、日本は9位。みなさんは、ベスト10にランクインしている国を見て、住みたいと思う国があるでしょうか。良い国をつくっているつもりが、現実を見ればこういう国なのです。

 

観光は、サービス業のなかで一番大きい産業だと言われています。宿泊や食事、おみやげなど、多くのお金が落とされていきます。世界の観光ランキングで、日本は27位です。観光するところが何もなさそうな国にさえ負けています。日本には、素晴らしいところがたくさんあるはずなのに。「うちの商品は良いものなのに、なぜ売れないのだろうか」と嘆く企業の社長と同じです。答えは簡単… 良いものではないから。商品が良いか悪いかは、顧客のほうが決めます。

 

例えば、中国人から最も人気のある沖縄みやげについてのデータがあるのですが、そのおみやげは泡盛でもなく、ちんすこうでもなく、夕張メロンなのだそうです。顧客の情報がすべてということ。顧客が何を望んでいるのかわからなければ、良いものを押し付けても意味がありません。教育も同じです。学校が良いか悪いかを決めるのは、生徒のほうなのです。

「需要をつくる」という考え方は古い

東京オリンピックが開催された1964年から50年、日本はどのように変わってきたのでしょうか。まず、一番衝撃的な数字は、人口の増加でしょう。3,000万人といえば、ネパールやマレーシアなどの国が日本に出来上がるようなイメージ。そのくらい日本の人口は増え、高度経済成長を支えたのです。人口の増加は、経済政策にマッチすると、あらゆる効果を生み出します。一方で、昨年亡くなった人の数は約128万人、生まれた人の数は約100万人です。現在、日本の人口は2050年までに1億人を切る、と言われています。

 

現代は、インターネットオブシングスの時代。モノとモノがインターネットでつながっています。ドイツの「インダストリー4.0」や、“ぶつからないクルマ”でヒットした「自動ブレーキ機能」などの例があります。インターフェイスを変えるだけで、物事は変わるのです。教育も同じ。画一的にやっていたら何も変わりません。みなさんの多くが所持している「Suica」は、個人情報の入ったICタグをつけることにより、人々の消費パターンを洞察することを可能にしています。

 

1920年頃、「有効需要」というすごい原理を考えた人がいます。経済は、需要と供給で成り立つもの。不況になると需要がなくなり、ものをつくっても売れなくなってしまいます。そこで生まれたのが、この「有効需要」の原理。「需要をつくっちゃおう」という考え方です。要するに、需要をつくれば、供給が増えて景気が回復するという考え方です。しかし、21世紀の日本や先進国における問題は、「供給が足りないから需要をつくること」でしょうか?むしろ現実は、モノが有り余っている供給過多が問題なのです。需要が足りないからといって政府がバラマキをしても景気が回復しないのは、需要と供給のバランスを取っていないからなのです。こうした供給過多をうまく利用しているのは、世界最大のタクシー会社「ウーバー」です。ウーバーは自社で一台もタクシーを持っていませんが、世界中に余っているタクシーを顧客情報とマッチングして最適のサービスを提供しています。すなわち、政府がすべきことは財政出動で需要を人為的に作り出すことではなく、規制を大胆に緩和してこうした新しい企業が新しい情報技術を使って需給バランスを解消していくこと、すなわちイノベーションを手助けすることなのです。

イノベーションは、技術革新ではない!

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターは、経済発展の理論を唱えました。経済を発展させるには、現状の均衡を創造的に破壊し、新たに創り出すこと、つまりイノベーションが大事なのだと。馬車を何台積んでも機関車にはなりえません。イノベーションは技術革新だと思われがちですが、実は違うのです。彼は、「イノベーションは組み合わせだ」と言いました。新しい製品、新しい生産方法、新しい市場、新しい原料、新しい組織の導入によって生み出すことができるのです。

 

例えば、50年ほど前、イエール大学のスミスくんは、「翌日までに全米150都市に荷物を届けるには何台の飛行機が必要か?」という問いに、「夜中12時までに荷物を集め、そこから自分の都市の荷物をピックアップし、翌朝までに戻ればよい」とし、「149機あれば実現できる」と主張。この考え方をもとに、「FedEx」が生まれました。技術革新ではありませんよね? イノベーションです。「JINS」のPC用メガネや、「ユーグレナ」のミドリムシも、イノベーションです。

私たちは未来の教育を変えていくことができる!

日本って、すごい国です。戦後の日本、復興までのプロセスが素晴らしい。人口は増えて、資源が足りない、という条件は何も変わらないけれど、「資源がないなら輸入しよう」「巨大な労働力もある」と、すべてを変えたのです。原発の再稼働というのは、最低の発想だと私は思います。変えていけば、半分のエネルギーで最高の水準をめざせるのではないでしょうか。

 

イノベーションは、私たち一人ひとりが昨日より今日、今日より明日を良くしていくことです。昨日の延長線上ではない。とはいえ、別のところから何かをやれということでもない。みなさん、国の基本である“教育”に、新しいかたちをつくっていきましょう。