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  • 未来教育リポート
  • 2015.11.30

デザイン・フォー・チェンジ: 答えのない未来を生きる子供たちに答えのない授業を!

デザイン・フォー・チェンジとは?

「デザイン・フォー・チェンジ」(以下、DFC)は、インドの私立学校創設者のキラン・ビア・セシ女史が始めたものだ。社会を良くすることを「CAN I?(無理じゃない?)」と思い込んでいた子供たちが、自分の身の回りの問題を解決することで「I CAN!(できる!)」と感じられるようにデザインされた学びのフレームワークである。このフレームワークは、ビジネスの世界でも使われているデザイン思考を元に、子供たちが主体的に動くように作られている。結果だけでなく、チャレンジする過程を大切にしているのが特徴だ。子供たちは、FEEL→IMAGINE→DO→SHAREという4つのステップを経ながら、自分たちで課題を見つけ、解決するのだ。この過程を経ることで、子供たちは共感力・想像力・行動力といったスキルを身につけることができると言う。このDFCに、桐蔭学園中学校女子部3年生が取り組んだ。以下、4ステップに沿って同校の取組みを紹介する。

STEP1. FEEL【感じる】

『あるミッションやテーマに対して、頭で考えるのではなく、五感で感じたことを言葉にしながら、課題を設定する』のが、このステップの目的だ。

 

今回、桐蔭学園中学校女子部3年生がDFCに取組むにあたり先生たちが設定したテーマは「国際理解」だ。この広義で抽象的なテーマを一人一人が感じやすいように、「私たちは国際理解を何のためにやっているのか?」「国際理解することで、何が手に入るか?」という問いが、生徒たちに投げかけられた。最初は戸惑った生徒たちも、自分の感じたことを話したり、「他人の意見を聞いて自分がどう思ったかを書く」といった作業をするうちに、自分とは違う考えに共感し「面白い!」と思えるようになっていったようだ。こうして、グループとして取り組む課題を設定していった。あるグループの課題は「外国文化を学び、自分たちの生活に取り入れてみる」ことだ。

STEP2. IMAGINE【想像する】

『課題が解決された未来を想像し、解決策のアイディアを出し合い、アクションプランを立てる』のが、このステップの目的だ。

 

生徒たちは、最初のステップで自分たちが設定した課題を解決するための様々なアイディアを想像し、思いつくままにポストイットに書きこんでいく。最終的には、ほとんどのグループの模造紙は、ポストイットで埋め尽くされていた。ある生徒は後で「時間が進むにつれて、アイディアが柔軟になっていった」と振り返る。これより生徒たちの想像力がかきたてられているのが分かる。アイディアを出し尽くしたところで、今度は実際に活動するためのアイディアを2~3個に絞り、アクションプランに落とし込んでいく。先に「外国文化を学び、自分たちの生活に取り入れてみる」という課題を設定したグループは、その生活の変化に思いを巡らし、より楽しい生活を想像したようだ。そしてまず外国の文化を学ぶために、実際に外国人と話をしてみるというアクションプランを立てていた。

STEP3. DO【活動する】

『アクションプランに基づいて、実際に活動する』のが、このステップの目的だ。

 

生徒たちは、放課後や週末の時間などを利用してそれぞれのグループ活動を行った。先に「外国人と実際に話をする」というアクションプランを立てたグループは、メンバーの一人が外国でホームステイをした経験があることから、そのホームステイ先の家族とスカイプ(インターネットの電話サービス)で実際に話をした。そのための準備として、メンバー全員で苦労しながら英語で原稿を作成したと言う。緊張しながら英語を話し、相手の英語を一生懸命聞き取ろうとしていた姿が目に浮かぶようだ。外国語を勉強している人が必死に思いを伝え、それが相手に通じた喜びは、実際に行動を起こしてチャレンジした人だけが感じられる貴重な体験と言えるだろう。「言葉が違っても、伝えたいという気持ちが大切だということが分かった」という学びを実感したようである。

STEP4. SHARE【共有する】

『自分たちの活動が起こした変化を振り返ってまとめたことを共有する』のが、この最終ステップの目的だ。

 

2か月間に及ぶDFCの最後の授業は、グループの発表の時間となった。各グループがパワーポイントや模造紙にまとめた資料を掲げて次々に発表していく。「世界の料理」「フェアトレード」「JICA(国際協力機構)」とテーマの切り口は様々だ。ホームステイ先の家族と話をしたグループは、「DFCの活動を通して、外国と日本の文化や思考の違いを共有することで、共通点や相違点を理解して、自分の生活に役立てたい」と今後の抱負を語った。印象的なのは、皆が堂々と楽しそうに発表していることだ。ただ与えられたテーマをインターネットや本で調べたのではなく、生徒たちが主体となって課題の設定から発表までを成し遂げたことで、生徒たちには自信がうかがえる。発表の最後に、生徒たちを授業の最初からサポートしてきたデザイン・フォー・チェンジ・ジャパン代表の田代氏が生徒たちにメッセージを送った。「皆さんはDFCを通じて、感じて問いを立てることから始まる学び方を学びました。自分で考えて、行って、見て、聞いたことすべてが学びです。この発表が終りではなく、この学び方をこれからも大事にしてください。」同校では来年も引き続き、DFCに取り組む予定だ。

授業が終わり、生徒たちからは「答えも例もないこの授業の形式はおもしろかった」「いつも考えないようなことを考えられたのは面白かった」などといった感想が寄せられた。このように授業が楽しいと思わせるDFCは、従来の「先生主体」の画一的な授業とはかなりかけ離れたものだ。教科書も答えもない「生徒主体」の授業は、先生も生徒も最初は戸惑うかもしれない。しかし、DFCのような授業こそがこれからますます必要になってくるのではないだろうか。一昔前と違い、5年・10年先といった近い未来さえも予想しづらい現代において、日本を始めどの国々も経済や環境などあらゆる面で、共存していかなければならない状況である。だからこそ、このような時代を生きる子供たちには、考え方や習慣の違う国の人々を理解しようする「共感力」と、予想しづらい未来を思い描く「想像力」、そしてチャレンジする「行動力」といったライフスキル(生き抜く力)が必ず役立つはずである。

 

インドで始まったこのDFCは現在およそ世界35か国、2500万人の子供たちが取り組んでいると言う。日本の子供たちを含めDFCを体験した子供たちが世界中でどんどん増えていくなら、もっと明るい未来が想像できそうだ。

 

【参考】

デザイン・フォー・チェンジ・ジャパン

http://designforchange.jp/

デザイン・フォー・チェンジ・ワールド

http://www.dfcworld.com/

デザイン・フォー・チェンジ創設者、キラン・ビア・セシのスピーチ(日本語字幕付き)