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  • 未来教育リポート
  • 2015.02.27

日本は教育もガラパゴス化?シンガポール幼児教育から見るグローバルシチズンへの道

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2015年、建国50周年を迎え、ますます経済発展著しい東南アジアの小国シンガポール。わずか東京23区ほどの面積しかないこの国は、今、世界中の人と富と情報が集まる世界のハブ国家として、目覚ましい発展を遂げています。シンガポールの生活コストは、世界でも屈指の高さとなっており、すでに都心部の家賃は東京の2倍を超えています。

 

また、グルーバル企業の多くは、アジア統括のリージョナル本社を東京からシンガポールに移しており、311の東北大震災が、そうした動きを加速させた面もあるようです。

 

 

いずれにせよ、これは資源を持たない小国シンガポールが、今の状態になるべく徹底的にエリート教育に力を入れてきた結果でもあります。

 

2014年、1年間の育児休業を取得した筆者は、この休みを使って家族でアジア放浪の旅にでました。そして、5歳の長男を現地シンガポールの幼稚園に2か月間、入園させてみました。

 

世界の教育を肌で感じて見たかったのです。

■早い段階での少数エリート選抜

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せっかくなので、現地ローカルの幼稚園に入園しましたが、やはりお勉強の要素が多い印象でした。文字通り、”プレスクール”、つまり、まさに小学校に上がる前の学校、という感じです。日本では、幼少期こそクリエイティビティーを、もっとも発揮できる期間であり、幼稚園は遊びを通して、多くを学ぶ場所と捉える向きもありますが、シンガポールでは、しっかりとお勉強をするところ、という前提を感じます。

 

もちろん、日本国内でも園による差はあると思いますが、国として教育への考え方の違いを感じました。

 

シンガポールでは、10歳で学力による選別が行われ、そこでエリート認定されると、国内のどこでも好きな中学校に行かれる、というスーパーエリート街道が用意されています。そうしたこともあり、国内の教育熱は驚くほど高いのです。特に幼児教育が盛んです。人生の早い時期で、ある程度、その後の人生のコースが決まってしまうからです。

 

こうしたスーパーエリートたちは、その後、海外の大学や高校に国費で留学して、国に戻りエリート官僚として国をリードする立場になります。兵役も経験し、各国のリーダー層と若い頃からの交際を経験し、日本で言う官僚とは雲泥の差の高待遇を受けて、文字通り文武両刀のスーパーエリートとして活躍するのです。

 

シンガポールでは、この非常に狭きエリート街道に乗れないと、”お先真っ暗”、とされており職業訓練校に進んだりするようです。

 

もっとも、近年ではこうした教育施策に批判が高まりつつあります。また教育費も異様に高く(我が家の長男が通っていた普通の現地幼稚園でバスの送迎など入れると、月額20万円近く。日本円が弱いこともありますが、日本の大学より高い学費なのです。)シンガポールでも少子化が進んでいます。また、逆に小さいうちから教育移住として海外に出てしまう人もいます。

 

超多民族国家で、人種、宗教なども多種多様のため、インターナショナルな雰囲気でありました。我が家の長男が通っていた幼稚園も、1クラス30人前後、国籍は15カ国ぐらいでしょうか。またハーフの子も多いため、結局、(見た目には)何人かわからない子も多いのです。

 

■1日のスケジュール

9:15  朝のスナックタイム(ここではキュウリとか、トマトとか出るようです)

9:35  モンテッソーリアクティビティ(英語発音、数字遊び、感覚遊び、料理とか、工具遊びなど)

10:20 マンダリン(中国語)

11:00 その日のテーマ遊び(音楽、工作、踊り、読み聞かせ)

11:45 ランチ〜シャワータイム〜昼寝

15:00 おやつ

15:30 学習遊び〜創作遊び

以降、外遊び、2回目のおやつ、読書などが続きます。

15:30に終了です。(その後残っても大丈夫です)

 

ちなみに、園内公用語が英語。マンダリンの授業はしっかりやります。我が家の長男も、マンダリンで歌を歌っていました。意味はわかってないと思いますが…。

 

先生の国籍もシンガポーリアン、中華系、マレー系、インド系、オーストラリア、イギリス、そして、日系、と多国籍です。

 

■一番の差は、”自分の考えを表現すること”

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さて、こうした幼稚園の中で、親である筆者が感じた日本との幼児教育の一番大きな違いは、”自分の考えを表現する”ことです。

 

例えば、英語、マンダリンなどの語学は、あくまでも道具であって、その道具を使って何をするか? つまり何を伝えるのか? というところに最大の重きが置かれています。

 

伝える道具の習得も大事ですが、それよりも大事なのは、”中身”です。”自分は、それについてどう思うか?”、”あなたの意見を言いなさい”、こうしたことを幼児教育でも徹底して行います。

 

グローバルシチズンとして、かなり幼い頃から、Show&Tellという、例えば、自分の作ったものをみんなに発表する、といったことを行います。いわゆるプレゼンテーションです。

 

こうしたこと、日本ではあまり行われていないのではないでしょうか?決められた正解を求める、ということではなく、自分の考える正解を、どう伝えると、みんなに伝わるか? 納得してもらえるか? 自分の意見、そして、それを相手に伝えること。民族も、宗教も、バックグランドも全て異なる人に、どうしたら伝わるのか? 今後、ますますグローバル化して、複雑になる社会に、あなたは何ができるのか? これを考えることが徹底して行われます。

 

ここに一番の違いがあるのだな、と感じました。

■将来の日本を担う子どもへ

経済開発協力機構(OECD)が行っている世界の学習調達度調査では、近年、シンガポールは日本を上回る目覚ましい成績を残しています。もちろん、これはある一つの指標にしかすぎません。こうした指標が全面的に正しい、とは決して思わないのですが、指標の変化を見てみると、日本の学力が相対的に下がっていっているのがわかります。逆にシンガポールはすべての項目で、世界トップになりつつあります。

 

シンガポール国内には日本人向け教育マガジン『Spring』というフリーマガジンがあります。内容が毎回、無料とは思えないほど充実しているフリーマガジンですが、2014年9月に3周年を迎えるにあたって、今まで掲載してきた『この人からのエール』の総集編が載っていました。

 

そこに掲載されていたのは、子どもの教育を考えて、2007年にシンガポールに移住した世界的投資家、ジム・ロジャースさん。世界一周を2回も行い、世界の隅々まで自分の目で見て周った大冒険投資家とも言われています。その言葉を引用してみます。

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「子どもたちが親と同じ年頃になる時には、彼らをとりまく世界と価値観は必ず変容している。その変化を具体的に想像し、それに備えて知識や経験を蓄えていく必要がある。」−2014 年新年号 投資家  Rogers Holdings 会長 Jim Rogers(ジム・ロジャース) 氏

 

自身の2人の娘さんは、マンダリンと英語を完璧に話し、シンガポールのエリート中学に通っています。グローバルシチズンとして、今後の世界で生きていくためには、まず道具としての英語、そして中国語が必要だ、という判断です。そして、世界をリードする、人、富、情報が集まる地に、子どもの時から身を置いて、肌でそれを感じる環境が必要だ、ということでしょう。

 

さて、みなさんはグローバルシチズンとして世界で生きていくためには、今後、何が必要だと考えますでしょうか。

 

シンガポールの幼稚園に子どもを通わせて思ったのは、これは子どもの教育の問題ではなく、これからの時代をグローバルシチズンとして、どう生きるのか?という大人の問題でもあるのだな、と感じたのであります。

 

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  • ライター

吉田和充

博報堂CMプランナー/コミュニケーションプランナー

企業の広報広告戦略の企画立案から、プロデュース、制作までトータルでコンサル、提案、サポート、実施をしています。

特に食や農、遊び、学びといった「人の真ん中」に携わる分野を得意としています。
2015年保育士免許取得(予定!)2児の父。
2014年、次男誕生に際して1年間の育児休暇を取得。

育休中は、家族でアジア放浪を行う。
日本の現状の教育に強い危機感を持っており、長男をシンガポールの幼稚園に2か月間通園させる。

小学館「WooRis」「Biz Lady」など複数のWebマガジンのライター。

子育てブログ「おとなになったらよんでほしい」
http://otoyon.com/

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